色々な思いを抱えながら…その日一日が終わろうとしていた。
特上の笑みを浮かべながら言った彼の言葉を聞いてから。
どうしても考えてしまう自分がいた。
「御堂さん?」
「え!?あ、はい!」
「大丈夫ですか?」
そう言って声を掛けてきたのは、切れ長の目を少し丸くしている彼。
「す、すいません。大丈夫です」
「今日は何かと忙しかったようですし。もうこちらの業務も終わりますから、先に上がっていただいても結構ですよ」
「そうでしたか。では、こちらの書類を片付けたら先に上がらせてもらいます」
「わかりました」
「ありがとうございます、柊さん」
「いえ…」
一言返事を返すと、またその場に沈黙が訪れる。
冷静沈着でそつなく仕事をこなす彼。本当に…いつ見ても尊敬に値する。
「御堂さん」
「はい?どうなさいました?」
「1月23日の…お嬢様の誕生日ですが、会場の準備などは私が主に指示をしますから」
「え?し、しかし…」
突然の申し出に思わず困惑。
その切れ長の瞳から何かを感じ取るには難しかった。
彼はふっと小さく口元に笑みを浮かべると、短くこう言った。
「奏様の誕生日ですから。この日くらい、御堂さんが忙しくなくてもいいでしょう」
そして彼はまた書類に目を落とした。
「ありがとう…ございます」
それは、確かな温かい優しさ。
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