「あ!いたいた!要さーん!」
「裕次様。どうなさいましたか?」

 廊下の先で手を大きく振っている金髪の彼。
 碧眼が見えないほど目を細めて笑顔を作っている。

「奏ちゃんのことで!」
「え!?お嬢様がどうかなさったんですか!?」

 思わず急いで彼の元へ駆け寄る。
 すると、彼はとてもおかしそうに笑った。

「あはは。要さん。奏ちゃんのことだからって慌て過ぎだよ」
「しかし…」
「だって、俺の顔見てよ。思い切り笑顔じゃない?」

 自分の顔を指差しながら、彼は笑っている。
 そのことにやっと気づいた自分。
 またしても顔が赤くなるのを感じた。

「奏ちゃんは幸せだなぁ、もう」
「ゆ、裕次様!からかわないで下さい!」
「あはは、ごめんごめん」
「それより、どうされたんですか?」
「あ、そうだった。あのね、1月23日ってもうすぐじゃない?奏ちゃんの誕生日」

 そういえば…もうすぐだったな。

 ふと、その一言に考え事をしてしまう。
 最近忙しかったから…しっかりと考えがまとまらないうちに日にちばかりが過ぎていた気がする。

 大事にしたい日なのに。

「そうでございましたね」

 しかし、そんなことを思わせないように…笑顔で答えた。

「それでね。俺、どうしても奏ちゃんにプレゼントを渡したいなぁって思ったんだけれど」
「それは、素敵なお考えでございますね」
「そこで!要さんに相談なわけ」
「私に、でございますか?」

 彼は嬉しそうに話を続ける。
 いつでも笑顔の絶えないところ。これは彼の良いところだと常々思っていた。

「そう。だって、要さんも奏ちゃんにプレゼントを渡すでしょう?」

 少しだけ声のボリュームを下げて、こそっと話しかけてきた彼の笑顔は、どこか…先程の彼と似た笑顔をしているように見えた。

「ゆ、裕次様!?」
「あはは、照れない照れない。だって、要さんは奏ちゃんの彼氏じゃない」

 なんだってこんなに今日はからかわれるんだろう…。
 そんなことを考えていると、そこに本を持った彼が通りかかる。

「二人で何してるの?こんなところで…」
「あ、瞬くん!瞬くんこそ、重たそうな本持ってるね」
「ちょっと書斎に本を取りに行ってたから」

 そう言うと彼は少しだけ首を傾げて、私の顔を覗き込んだ。
 そして、ふわりと笑う。

「あぁ、奏ちゃんの話か」
「え!?」
「そうそう。さっすが、瞬くん!」
「ふふっ。要兄ちゃんの顔を見たらわかるよ。裕兄ちゃんと話してるってことは、プレゼントのお話?」

 相変わらず、彼は察する力が強すぎる気がする…。
 やや、その場に置いていかれたような気持ちを持ちながら…話の行方を追っていた。

「そうなんだよー。やっぱりさ、みんなと被らないように被らないようにって考えてると…何が良いのか解らなくって」
「確かに、考えちゃうよね」
「それで…私に相談をと思ったわけですか…」
「ぴんぽん!正解!」

 やっと、話が見えてきた気がする…。

 のだけれど。

「裕次様、申し訳ないですが…」
「あ、やっぱり内緒だよね?」
「え?」
「いやぁ、やっぱ野暮なことだよなぁって思ってたんだ。いいのいいの!それなら!」
「い、いえ、あの…」

 まだ、決まっていないんですが。

 それを言おうとしたときにはすでに後の祭り。
 笑顔を振りまきながら、彼は嵐のようにその場を去っていった。

「…裕兄ちゃんらしいね」
「で、しょうか?」

 そして、彼もまたくすくすと笑いながらその場を去っていったのだった。


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