そんなある日のことだった。
柄にもなくずっと考え事をしていたからか、風邪を引いてしまった。
熱はさほど高くはないけれど、それでも身体は火照ってだるい。
おまけに頭痛と咳付き。
…本当にツイてない。
「何してんだろなぁ…俺」
そっと呟いた言葉は妙に熱っぽくて、冷たい空気に混ざることなくどこかへ行った気がした。
無機質な色の天井を見上げても、少しだけチカチカして見えるだけで。本当に見たいものはそこには何もなかった。
だるそうに腕を上げて額に当てれば、前髪が少しだけ目に掛かってくすぐったく感じた。
こんな時、妙に寂しく感じるのはなんでだろう。
身体と一緒に気持ちも弱ってしまうからなのかな。
「…笑って話をしていたいだけなのに」
気持ちに素直になれれば、どれだけ楽だろう。
だけれど、それを言ってしまえば…何かが変わってしまう気がして。
そこに踏み込めるほどの勇気が、今は何もなかった。
…コンコン
「は…い?」
その時、規則正しい音が耳に飛び込んできた。
要さんが夕飯でも持ってきてくれたのかな?
そういえば、薬も飲めていなかった。
でも、やってきたのは違う人だった。
「…裕次お兄ちゃん。大丈夫?」
そっとドアを開けて覗き込んで来た顔は…今一番会いたいと思っていた人。
奏だった。
「奏ちゃん!?…げほげほっ!」
「裕次お兄ちゃん!?ダメだって、しっかり寝てなくちゃ」
慌てて部屋へと入ってきた彼女の言葉に素直に従う。
「風邪…うつっちゃうよ?」
本当は嬉しくて嬉しくてたまらないはずなのに。
出てくる言葉はこんなこと。
元気だったら、今頃抱き締めてる頃だ。
「大丈夫!私、身体は丈夫なんだから。それより、お粥持ってきたの。食べれる?お薬も飲まないといけないし…」
そう言って彼女はサイドテーブルにお粥の乗ったトレイを置いた。
「そのお粥って…」
「あ、これね。修一お兄ちゃんが作ってくれた卵粥だよ。すごく心配してたから」
「そうなんだ。そっか…。これ、美味しいんだよなぁ」
自分でもわかるくらいふにゃっとした笑い顔。
すると…
「ほ、ほら!あったかいうちに食べちゃおう?」
パッと視線を外したのは彼女の方からだった。
「うん?」
「な、何?どうかした?」
慌てる素振り、少し赤い顔。…どうかしたのかな?
「ううん、なんでもない。じゃあ…もらおうかな。お粥」
「じゃあ…食べさせてあげるよ!」
…。
「えぇ!?」
一瞬何を言われたのかわからなかったのだけれど。彼女はてきぱきと取り分け皿に湯気のたったおいしそうなお粥を分けていく。
「はい、あーん」
少し赤い顔をした彼女。
すっと差し出されたレンゲにどうしたらいいかわからず。
とりあえず…されるがままにしてみた。
「…おいしい!」
「ふふっ。修一お兄ちゃん特製のお粥だもんね」
そうなんだけれど…。
奏が食べさせてくれた…からなんだよ?
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