「雅季くん!お願い、宿題教えてー!」

 談話室に響いたのは彼女の声。こんな会話はもう普通過ぎて。
 慣れてきた。と言いたい所だけれど、俺の中ではまだ何かもやもやとしたものがあった。

「…数学?」
「当たりです」
「あ、俺も教えて欲しいところあんだけれど」
「雅弥も?…雅弥の場合は授業聞いてないからだろう?」
「ちょっ!奏との扱いっつーか態度、違うんじゃねぇの!?」

 二人の会話に割って入った雅弥が僻むような声をあげる。
 その声に俺はドキッとした。

 扱いが違う?

 それは、奏ちゃんと雅弥だから?
 それとも、『奏ちゃんだから』?

 一瞬にして頭を駆け巡っていったその言葉。
 もしかしたら、雅季も本当に彼女のことが好きなのかもしれない。

 一度は拭ったその考えも、再度考えてしまえばなかなか離れていかないものだ。

 彼女もまた雅季のことが好きなのかもしれない。
 その考えもまた一緒に浮かんできてしまった。

「ねぇ、裕次お兄ちゃんもそう思うでしょう?」
「え!?な、何?ごめん、ボーッとしてた」

 急に彼女に話を振られ、何があったのかわからない俺。

「大丈夫?お兄ちゃん…疲れちゃってる?」

 そして、心配そうな顔。
 あれ、俺…こんな顔させるつもりじゃなかったのに。

「大丈夫大丈夫!ちょっと考え事してただけだからさ」
「は?ユウ兄が考え事?似合わねー」
「こら!雅弥!お兄様に向かってなんてことを…!」
「…ほら、宿題やるんじゃなかったの?」
「え!?あ、ちょっと待ってよ!雅季くん!」

 あ…。

 なんとも言えない気持ちが胸中で渦巻く。

 嫌だな、この感情。


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