「で、その…そう、犯人がわかったって場面!あそことか…」

 部屋に入ってからも、彼女の感想は止まらない。
 僕は彼女の話を聞きながら、受け取った本を本棚に戻しまた別の本を手に取った。

「だけれどさ」
「うん?」
「最後は…ちょっと悲しかったね」

 そう言った彼女の表情がどこか遠くを見ているようで。
 なぜか、胸の奥がざわついた。

「…何かあった?」

 どうして、そう聞いたのかわからない。
 ただ、気づいたらそう聞いていた。

「え?」

 こちらを見つめる表情は驚きそのものだったけれど…。

 あぁ、わかった。

「なんとなく…だけれど。いつも以上に喋ってるしね。夕食の時も、ちょっといつもと様子が違う気がした」

 わかるさ、そのくらいは。いつだって、君を見ているんだから。
 なんとなくね、どこか上の空というか。あるいは、必死で違うことを考えようとしている感じがするんだよ。

「…」

 少し考え込むように俯き黙る彼女。
 普段も割と静かな部屋なのに、今はやけに静か過ぎる気がした。

「今日の放課後に、ね」
「うん」

 ぽつりと話し始めた奏は、まだ俯いていた。
 そんな彼女を見つめながら、ひたすら…言葉を落とさないように耳を傾ける。

「巧くんに好きだって言われて」
「…え」

 少し紅潮したように見えたその顔。
 その顔を見てすぐに感じた。

 それは、嫌な予感。

「すごく驚いた…から。なんか、まだ変な感じがしちゃって」

 苦笑いにも似たその笑顔をこちらに向けながら。
 その言葉とその笑顔に、心臓が掴まれたような衝動に駆られる。
 それと同時に、少しの冷や汗と心臓の早く鳴る鼓動を感じた。

「ごめんね、こんな話…」
「別に…良いよ」

 続きを聞きたかったけれど、促すことはやめた。彼女が…話をするまで。

「まさか自分だなんて思っていなかったから。どうしたら良いかわからなくて。それで、なんか変だったのかな、ごめん。心配かけて」

 そう謝る奏に「構わない」と言いながらも、心の中では違う返事をする。

 きっと、君が思っている心配じゃないんだ…。

「そろそろ…部屋、戻るね。ありがとう。本、借りていくね」

 そう言って、すっと立ち上がりドアノブに手を掛けに行く彼女。

 …それはきっと、自分の中で一番素直な行動だった。

「…え?雅季くん?」

 ぐっと握り締めた細い腕。あまりに華奢で、このまま…さらに力を入れてしまったら折れてしまうんじゃないかと思うくらい。

「…」

 きっと、自分の目は…何かを訴えていたんだろう。
 だけれど、言葉に出てこなかった。

 そんな自分が、悔しかった。

 ねぇ…奏。
 君もきっと…巧が好きなんでしょ?

 だけれどね、

 僕もまた、君が好きなんだ。

 そんなこと、言えないけれど。
 だって、君を困らせるだけだから、さ。

「どう…したの?」

 少し驚いている彼女の瞳と声色。それに気づいて、すぐにその手を離した。

「ごめん…なんでもないんだ。…おやすみ」

 そう言って、彼女を部屋から送り出し…パタンと静かにドアを閉めた。


 きっと、抱いてはいけなかったこの感情。
 これは…どうしたら沈んでいく?

 その内、親しい友人と好きな人が笑いあいながら歩く姿を見ることになるだろう。

 そんなことを考えながら、暫くドアに背を預けていた。


 これは、君を好きになった…罰…かな?


 窓の外で、小さく雨音が聴こえてきた。
 天気予報で、夜のうちから雨が降ると言っていた…な。

 そう思いながら…心のどこかで降っている雨音に耳を傾けていた。


―Fin―

→あとがき


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