次の日の朝。
 珍しく少しだけ遅く起きたのは、きっと昨日のことが頭から離れなかったからだと思う。

 でもそれは…限りなく間違いだった。
 食堂でそれを思い知る。

「おはよう、雅弥。今日は珍しく遅いですね」
「お、おはよう。…今日はちょっと寝坊しちまって」
「そうでしたか。それでは、僕はもう行きますので」

 食堂に入るなり、修兄とすれ違う。いつもの笑顔。いつもの口調。変わらないそのささいなことに少しだけホッとする。
 雅季は生徒会の仕事があるからと、もう先に学校に行ったようだった。
 そんなわけで食堂にいるのは…

「ほら!瞬くん、起きてご飯食べないと!」
「…まだ眠たいよ…」
「御堂さん、ホットミルクもらえますか?」
「かしこまりました、お嬢様」

 登校前の裕兄、瞬、奏。そして、執事の要。
 …まだ瞬と要がいるだけマシかも。

「あれ?雅弥くん、珍しいね。今日は朝練ないの?」
「…」
「雅弥くんってば」
「え?あ、お、おう。今日は、な」
「ふぅん。じゃあ、一緒に学校行く?」
「い、いや自転車で行くからよ!わりぃな」

 いつものように話しかけてくるのは、奏。
 実は一番…話しづらいのも奏。

 だってさ、見てりゃわかるから。

 どことなく…裕兄と奏の様子がいつもと違うってこと。

「…あぁあ。なんで今日に限って寝坊したんだろ、俺…」

 ボソリと呟いてみたけれど、運良くその声は誰の耳にも届かなかった。

 パンをかじって、そのまま席を立つ。
 やっぱり居られねぇよ。

「雅弥様…もう宜しいのですか?」

 要が少しだけ心配そうにこちらを見て告げる。

「あぁ、俺もう行くわ。大丈夫だから。じゃ、いってくるわ」
「そうでございますか…。いってらっしゃいませ」

 少し心配そうな表情は抜けないまま、それでも笑顔を向ける要。なんだか少しだけ申し訳ないような気がした。

 そして、感じる視線が一つ。
 振り返らなかったけれど、なんとなく誰のものかわかった。

 多分、裕兄。

 その日の授業はいつも以上に身が入らなくて参った。
 ついでにこういう時に限って眠気も来ないものだから、授業が何倍にも長く感じてしまった。

 あまりにスッキリしない気持ちが続き、つい一時間だけ授業を抜け出す。それでもスッキリしないまま次の授業を受けたら、起きている俺がそんなに珍しかったのか…修兄が少しだけ驚いた顔をしていた。


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