瞬時に頭で理解した。
俺は今、見てはいけないものを見てしまったって。
それは、奏の姿。
手には真っ青に染まった本。写真集のようなものだった。
片手を空けるとノックをする。どこか嬉しそうな、その仕草。
その姿、その表情…俺、あんまり見たことねぇや。
その扉は、裕兄の部屋のドアだったこと。
鮮明に覚えてる。
奏は俺の姿に気づくこともなく、何度ノックしても返事のないその扉をそっと開けるとするりと中へ入っていった。
きっと、裕兄に本を貸しにでも行ったのだろう。
兄弟間なら…別に普通のことのはずなのに。
でも、俺は足早にその場を去った。
なんでって?
俺は、なんとなく気づいていたんだ。
奏の裕兄を見る目と俺を見る目が少しだけ違うこと。
そして、
裕兄もまた違った目で奏を見ていたことに。
だから、本当は気になって仕方がなかった。立ち去りたくないほどに。
奏が部屋に入った時、裕兄は何をしていた?
寝ていた?それとも、ノックに気づかない程何かに没頭していた?
もし、二人が話をしたなら、何を?どんな話?
部屋着姿だった奏。
嫌でも変な事を考えてしまいそうになる自分が妙に悔しかった。
だから、俺は部屋に戻ってからは一歩も廊下へは出なかった。
卑しいことをしそうな自分が、心のどこか隅で構えていたからだ。
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