会話はあまりなかった。まあ、課題のために来ているわけだし。僕は本を読みに来たわけだし。
 でも、この沈黙は嫌じゃない。なんとなく…居心地がいい。
 ふと彼女を見ると、シンプルなヘアゴムで髪をまとめていた。飾りも何もない黒いヘアゴム。なんとなくそれは彼女らしいとも思った。

「ん?何?何かついてる?」

 そんな僕の視線に気づいたのか、奏は不思議そうにこっちを見ている。
 はっとしてなんとなく気恥ずかしくなった。

「いや、別に…」

 目線を本の方へやりながら答える。まさか彼女を見ていただけとは言えないから。
 そしてまたしばらく沈黙が流れる。
 また僕はちらっと彼女を見た。
 髪を縛ってるところなんてあんまり見たことがなくて、珍しかったから。
 邪魔にならない程度に適当に縛っているからか、少しだけ横髪が前へ垂れている。耳に掛かった髪や少しだけ見えるうなじが、なんとなくいつもと違って色っぽく見えた。

 …髪縛るだけでも印象変わるんだな。

 そんなことを考えていたら、奏は一つ伸びをしてから席を立った。

「うーん、よし!これで大丈夫っと」
「終わったの?」
「うん。一応ね」
「そ。よかったね」

 そう言いながら、彼女は髪をほどく。ばさっと揺れる髪がまた綺麗に見えた。

「…髪」
「え?」
「縛ることもあるんだね」

 気づいたら言葉が出ていた。

「あぁ!あんまり縛ってないもんね、あたし」

 笑いながら彼女は答える。

「宿題やってるときとかはねー、髪邪魔だから縛ったりするんだよ。まあ、だから可愛いヘアゴムとかあまり持ってないんだけれどね」
「ふーん…」

 彼女は黒いヘアゴムを見せながら笑う。そして、

「髪縛ってると変かな?」

 聞いたことが気になったらしい。彼女は僕にそう聞いた。

「いや…そんなことないよ」

 それ以上は言わない。似合ってるとか違って見えたとか。あと、少し…綺麗に見えたとか。

「そっか。あ、もうこんな時間!じゃあ、また明日!おやすみ、雅季くん」
「…おやすみ」

 いつもの笑顔で彼女は笑うと部屋を出て行った。


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