あの日から、もう1か月が経ったかと思うと本当に早い。
「そういえば、今日ってホワイトデーだよね」
「そうだね」
さり気なく言ったその言葉だったんだけれど…。思ったよりも反応が薄くて、私は空振りした気分だ。
…折角、内緒でクッキー焼いたんだけれどなぁ。
そんなことを思いながら少し黙っていると、雅季くんは一つ息をついてから一冊の本を取り出した。
「今度は、何の本?」
「…奏が読みたがってる本」
「…私が?」
そう言うと雅季くんは一冊の本を私に差し出す。
題名は「P.S.アイラヴユー」。セシリア・アハーンの小説だった。
確かに読んでみたいなぁとは思ったことはあるけれど…。
でも、そんなことを雅季くんには言ったことがなかったし、何より『読みたがってる』ってほどではなかった。
「読んでみたいとは思ってたけれど…私、雅季くんに言ったっけ?」
「さぁね」
短い返事を返す雅季くん。
私はとりあえず、その本を受け取ることにした。
「…あれ?」
受け取ってみてやっと気づいた違和感。
それは、その本自体のことだ。
何か…挟まってる。
パラパラとページを捲ることなく、そのページに辿り着くことができた。
だって、挟まっていたのは…
「ブレスレット…?」
小さなハートのモチーフの着いた小振りのブレスレットがそこにはあったのだ。
「今日は、ホワイトデーでしょ?」
ふわりと降ってきたその言葉に顔を上げれば、雅季くんが少し赤い顔をして眼鏡を直している。
「君ってさ、ホント鈍感」
「え!?な、何それ。酷いよ!」
「今日の僕見てさ、何も思わない?」
「…へ?」
そういえば…今日の雅季くんって…どこか違う。
そうだ。服装がいつもとちょっと違うんだ。
シャツにネクタイ、黒の薄手のニット。そして、黒のチェック柄のパンツ。
「支度しておいでよ。出掛けるよ?」
「えぇ!?そ、それなら早く言ってよ!」
「言ったらつまらない」
「そ、そうかもしれないけれど!」
「それと」
「え?」
「それに似合う格好にしてほしいと思ったから」
そう言うと赤い顔で視線を逸らす雅季くん。
それは、ブレスレットのこと。
「うん!」
私は大きく頷くと「支度してくる!」と言って雅季くんの部屋を後にした。
その手には本と一緒に小さなブレスレット。
そうそう。
ブレスレットの挟まっていたそのページにあった言葉に、
“永遠の愛をこめて”
って言葉が見えたんだ。
私は、それがすごく嬉しかったんだ。
さぁ、何を着て出掛けよう?
―Fin―
*文中著書*
※夜間飛行/サン=テグジュペリ
※P.S.アイラヴユー/セシリア・アハーン
*より抜粋*
→あとがき
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