バレンタインデーの日。
通された雅季くんの部屋は相変わらず綺麗で。
だけれど、そんなことすぐにわからなくなっちゃうくらい私はドキドキしていた。
「それで?」
「へ!?」
「上手に出来た?チョコレート」
ふわりと笑うその笑みは、どこか意地悪を含んでいて。
「だ、大丈夫のはず…!」
振り返ったその先に居た雅季くんは思ったよりも近かったのに。
それだけでも充分なのに、ゆっくりと私に近付く雅季くんに私の顔は赤くなるばかり。
「ふぅん。じゃあ、期待して良い?」
「き、期待に応えられるか不安なんだけど…」
「でも、失敗しなかったんでしょう?」
その言葉に私の心臓が跳ねる。
―…失敗しないおまじないをあげるよ。
それは淡いキスの感触。
「し、しなかった…」
もう限界と言わんばかりに私は俯く。
雅季くんはきっと近くで笑ってるんだ。あのいつもの笑みで…。
「じゃあ、もらってもいい?」
「…うん」
すっと差し出されたその手はとても綺麗で。
私はその手に渡すのが申し訳ないくらいな気持ちでチョコレートを手渡した。
しゅるっと音を立ててリボンが解かれる。
あっという間に姿を現したチョコレートはどこか歪に見えて。
私はまともに見ていられなかった。
「…どう、かな?」
小さな声で雅季くんに聞く。
すると、雅季くんは返事をしないで机のほうへと歩いて行ってしまった。
…おいしく、なかったのかな?
そう不安に思っていると、雅季くんが机に置いてあった包みを手に持って戻ってきた。
「?」
「はい」
「え?」
「チョコレート」
「チョコ…?」
「何?もう忘れたの?」
片方の眉を下げると怪訝そうな顔でこちらを見る。
「…あ」
―…上手に出来たら…僕からもあげるよ。チョコレート。
「美味しかったからね。約束」
「ありがとう!雅季くん!」
包みを開けると、自分が作ったものよりも綺麗なチョコレートが入っていた。
ちょっと悔しくなっちゃうけれど…もらえたってことの喜びの方が嬉しくって。
「食べて良い?」
「好きにすれば?」
「やった!」
「あ、でもその前に」
「うん?」
「いい加減、僕の気持ちにも気づいてもらわないと困るから」
そう言って、彼は私にキスをした。
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