ハニーハントから出て来た後、あたりはすっかりオレンジ色に染まっていた。

「もうこんな時間かぁ…」

 ぼそりと呟いた私の声はしっかり裕次お兄ちゃんに届いたようで。

「まだこんな時間、だよ?」

 顔をあげるといつもの眩しい笑顔。
 私はその笑顔から目が離せなくなった。

「まだまだ、時間はあるよ。さぁ、行こう?大好きなスティッチの所」

 差し出される手。
 最初とは違って、今度はその手をしっかりと握った。

「…うん!」

 ねぇ、裕次お兄ちゃん。
 少しは距離…近づいたかな?


 少し早足で向かった場所は魅惑のチキルーム。
 一歩入れば、またそこは違った世界が広がっていた。

「すごいなぁ。俺、実はまだ入ったことなかったんだ。ここ」
「そうだったんだ?」
「そう!絶叫とかのアトラクションが大好きだからさ。ついそっちばっかり行っちゃって」
「ふふっ。はしゃいでたもんね、裕次お兄ちゃん」

 席につき、ショーの始まりを待っていると。
 離した手に再び温もりを感じた。

「え?」

 その瞬間、ショーの始まりの音が響いた。
 少し薄暗くなったその場所で、私はぱっと手を見た。

「…あ」

 繋がれた手と手。
 さっきまでとは違った感じがして…
 私はショーに集中しようと思ったのだけれど、なんだか恥ずかしくて。
 大好きなスティッチが出てきても、私は半分以上上の空だった。

「うーん!すごく可愛かったね!」

 裕次お兄ちゃんがにこにこ顔で私の顔を覗き込む。

「う、うん!可愛いスティッチが見れてすごく嬉しかった!」

 まさか上の空だったなんて言えない。
 そんな私の様子のおかしさに気づいたのか、裕次お兄ちゃんの顔が少しだけ曇った。

「奏ちゃん、疲れちゃった?俺、連れまわしちゃったもんね」
「え!?そんなことないよ!」

 必死で弁解したのだけれど。裕次お兄ちゃんは近くのベンチまで向かうと私を座らせた。

「だーめ。なんかあったら俺困るもん!」
「…はぁい」

 ぽんと肩に手を置かれると私は渋々ベンチに座った。

「うん、そうだ。ちょっとここで休んで待っててくれるかな?」

 裕次お兄ちゃんは腕時計をチラッと見ると、私が返事をする前にぶんぶんと手を振ってから走って行ってしまった。

「…ど、どうしたんだろう?」

 その行動に半ば呆然としながら、私はのんびりとベンチに座って裕次お兄ちゃんを待つことした。

 そういえば。昼間…二度目のポップコーン…あの時はキャラメルだったかな?その列に並んでいる時も「ちょっと待ってて!」ってどっか行ったっけ。

「まぁ…いっか」


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