「うーん…」
それは、ホワイトデーも間近に迫ったある日のこと。
私は厨房で呻り声をあげた。
目の前には…クッキーの材料。
そう、私はホワイトデーのお返しを作ろうと思っていたのだ。
けれど。
「…柊さんからもらったチョコチップクッキー…すごく美味しかったんだよね…」
そう。私が頭を悩ましているのは、それだった。
お菓子作りは結構好きで、前々からやっていたのだけれど。
それでも、あの柊さんがくれたクッキーにはとても敵いそうにない。
あれ、多分手作りなんじゃないかって思うんだけれど、な。
柊さんがチョコチップクッキーを…手作り?
私は思わずくすりと笑ってしまった。
だって、そんな想像、したことない。
「って。それだと余計に困る!」
私は頭をぶんぶんと振るとまた悩むのだった。
私は、どうしてもホワイトデーのお返しを…クッキーにしたかったから。
だって、
お返しで、本命はクッキーだって…聞いたから。
「クッキーは今まで色々作ってきたけれど。やっぱり一番得意なスノーボールにしようかなぁ」
柊さんって、あまり甘いものを食べてるってイメージないけれど。
でも、バレンタインデーの時は…受け取ってくれたんだよね、手作りチョコ。
そういえば、あの時甘さ控えめのコーヒー入れてくれたっけ。
チョコレートが甘いからって。
ちょっと大人な…コーヒーが苦手な私でもすんなり飲めたよなぁ。
あぁ、やっぱり私って…ちょっとお子様な気がする。
「…とりあえず、作ろうかな」
柊さんのチョコチップクッキーには劣るかもしれないけれど。
それでも私はどうしてもクッキーを渡したかった。
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