のんびりと話をしながら会場へと向かったというのに、その道のりは本当にあっという間だった。
 そのことを少しだけ残念に思いながら、その場所へと足を踏み入れる。

「わぁ…!」

 様々な年齢層の人たちの集まるその場所は本当に広くて。
 シンプルなのに、どこか幻想的なステージ。
 まさに圧巻。

「ほら、奏。ボーッとしてないで。席、探すよ?」
「あ、ごめん!」

 ハリスくんに促され、慌てて彼の方を振り返る。
 と。

「ん」
「え?」
「段差、あるしね」

 ぶっきらぼうに差し出された左手。
 ハリスくんの顔は少し…どころか、真っ赤だ。
 私はそんな彼を見て、くすっと笑ってからそっと手を取った。

「ありがとう」

 私は、ハリスくんのこういう所が好きだ。

 そう思ったら、どんどん自分の中の『好き』という気持ちが溢れてきた。
 どうやったら、この気持ちを彼に届けられるだろう。
 そう思いながら。私は少しだけ震える熱い手を握っていた。

 席についてから、私は入り口でもらったパンフレットに目を通す。

「わっ。わかってはいたけれど…全然わからないかも」

 そこに書いてあった曲目は、聴けばわかるのかもしれないが…曲名だけでは到底わかりそうにないものばかりで。
 ただでさえ、クラシックに疎い私にはまるで音楽の教科書を読んでいるかのよう。

「まぁ、無理もないよ。奏は…あんまり聴かないでしょ?」
「う…」
「でも、きっと聴いたことあるって曲くらいあるんじゃないかな?」

 意地悪そうにも聞こえるその言葉。だけれど、その表情と口調はとても優しいものだった。

「この演奏会はバイオリンの曲ばかりではないから。管弦楽曲とかもあるし、ね」
「そうなんだ…」

 あ。本当だ。パンフレットにも書いてある…曲名は変わらずわからないけれど。

「でも」
「うん?」
「すごく、楽しみだよ。私」
「え?」

 それは、私の素直な気持ちだった。

「こういう所ってあまり来ることないし。何より…」
「何より?」

 ハリスくんと一緒っていうのが一番嬉しい。
 なぁんて、言えないや。

「ふふっ。なんでもない」
「何それ」


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