『21時頃の空を見ていきましょう…―』

 見上げている天井と丸い天井が境界をなくしていく。

 週末、私は瞬くんとプラネタリウムに来ていた。
 少し大人っぽい格好をしていた瞬くんは、なんだかいつもと違う感じがして…年下なのに年上のような、そんな感じがした。

 上映中、こっそりと盗み見した瞬くんの横顔。
 その後、繋がれた手をそっと見てから私は偽りの夜空を見上げた。

『まず、一番最初にわかるのがこのオリオン座。オリオン座には一等星、明るい星が2つあり…―』

 そこには一等星から肉眼で見える限界の星の六等星まで、様々な星が広がっている。
 一体私は…この星たちをどこまで見たことがあるんだろう。
 想像もつかない。

 次々と偽りの夜空を横切っていく輝く矢印。時々そこに黄金の線も現れ、星座の形を丁寧に作っていく。そして、それはどんな星座なのかという絵も現れて。
 あぁ、実際の夜空にこれが出ていればどんなにわかりやすいことか。
 そんなことを思いながら一つ息をつく。
 そして、気づいた一つの視線。

「…どうかした?瞬くん」

 それは隣に座っている瞬くんのものだった。

「今…あれが夜空に出ていればって思ったでしょう?」
「え?な、なんでわかったの?」

 ぼそぼそと小さな小さな声で交わされる会話。

「…奏ちゃんのことだから」

 くすっと笑ってそう告げた瞬くん。
 そして、私の頬に一つキスをした。

 暗闇の中での、一瞬のキス。
 本当に一瞬のことだったのに…なんでだろう、頬から感触が消えてくれない。

「本物の夜空では、僕がしっかり教えてあげるから」

 そう言って、瞬くんはまた偽りの夜空を見上げた。


“奏ちゃんのことだから”


 私はその一言が、どうしても頭から離れなかった。


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