それは3月に入って少し経った頃のこと。
周りが「ホワイトデー」という話題に敏感になっているころで、雅弥くんなんかは面倒くさそうにしていた。
そういえば、雅季くんは…どうするのかな。
私も私でしっかりと雅季くんにあげたのだけれど、雅季くんは勿論…人気者だ。
日曜日だったバレンタインデーだったけれど、平日に前もって渡しに来た子や、当日渡しに来た子。そして、次の日に渡しに来た子もいて。
そんな様子に私は少しやきもきしていたりもした。
「奏、聞いてる?」
「へ!?あ、ご、ごめん。ちょっとボーットしてた…かも」
「かも?」
「…いえ、してました」
雅季くんの部屋で、珍しく雅季くんが話をしていてくれたというのに。
私ったら、何してたんだろ。
「だから、今週末。空けておいて?わかった?」
「へ?今週末?」
「何か用事あるの?」
「いえ、何もないです」
「そ。じゃあ、そういうことだから。遠出するから、しっかり支度してね」
「遠出?」
淡々といつもの口調で話す雅季くんのペースに、なかなかついていけない私。
雅季くんは眼鏡をくいっと人差し指で直すと、話を続ける。
「そ。遠出」
「どこへ行くの?」
「それは言って楽しくなるもの?」
「言ってみないとわからないよ」
「そう、じゃあ、言わない」
口調は変わらない。雅季くんの表情も変わらない。
今週末…?今週末……あ…。
「ホワイトデー…」
今週末って、3月14日だ。
「何?」
「え?なんでもない」
それに気づいた私は、なんだかそれだけですごく楽しい気分になった。
だって、それって、ホワイトデーデートってことでしょう?
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