「…え?」
「聞こえなかったの?奏」
「や、その…」
紅潮した頬。
それは夕焼けのせいだったのか…それとも、彼…雅季くんの一言のせいだったのか。
「綺麗だって…言ったんだ」
すっと頬へと伸びてきた細い指。
少しだけ冷たく感じたその手さえも、愛しさで溢れてる。
「…っ」
私は、その二度目の言葉にも何も答えることが出来なかった。
恥ずかしさ?
照れ?
嬉しさ?
わからない。
でも、きっと…―
「キス…していい?」
気づいた時にはもうその吐息は間近で。
ふわりと鼻をくすぐる彼の香りは、きっと私からもするんだろう。
ザンッ…―
小さく、でも大きく聞こえてきたのは波の音。
夕焼けのオレンジに染まる海が眼下に広がっている。
きっと、きっと…
長い夜が始まるんだ。
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