「そろそろ、参りましょう。奏様」
「あ…はい」
その言葉に少し名残惜しいものを感じながら。
そんな返事をすると、柊さんはこう続ける。
「…海沿いを少しだけゆっくり走りますから」
こちらは見ずにヘルメットを被りながら。
それはきっと、柊さんの優しさ。
だから、私は満面の笑みで返事をした。
「ありがとうございます!」
「…それと」
「なんですか?」
「…どうぞ」
「はい?」
ヘルメットと一緒に渡されたのは、私が渡したものよりもさらに小さなプレゼント。
「へ?」
「本日はホワイトデー、ですからね」
そう言うと柊さんは颯爽とバイクに跨ってしまう。
私はお礼もしっかり言えないまま、慌ててその後を追った。
無言のまま、走り出すバイク。
さっきよりも少しゆっくりとした速度で、風を切っていく。
海沿いのその道はどこまでも続いているような気がしていたから、帰路に着いたときは本当に寂しく感じた。
だから、私はまた腕に力を込める。
それは寒いからではなくて…
この温もりを、暫く感じていたかったから。
さて。結局、私がお礼を言えたのはバイクから降りた…西園寺家の門の前。
そして、そのプレゼントを見れたのは自分の部屋だった。
中身は貝殻をモチーフにしたヘッドがついているネックレスだった。
「海って、言った…から?」
どうしてこれにしてくれたのか。
どうしてこれをくれたのか。
どんな気持ちで選んでくれたのか。
今の私には知る術はないのだけれど。
鏡の前でそっとつけたネックレス。
控えめについていたラインストーンがキラリと光った。
「今日は、これを…つけていようっと」
鏡の中の自分にそっと笑顔を見せて。
私は部屋を出て行った。
そして。
私のあげた携帯灰皿を使っているところを、私は目撃するのは…
もう少しだけ後のお話です。
どうも、ありがとう。
―Fin―
→あとがき
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