「わー!綺麗!」
バイクを降りて、目の前に広がる海を見る。
寄せては返す波。水面が揺れるたびに光がキラキラと輝いて、それは本当に綺麗としか良いようのない景色。
柊さんはバイクに寄りかかって煙草を一つ。
ふぅと吹くその白煙は、海風に揺れて消えていった。
その様子が、本当に大人で…。思わず見惚れてしまった。
「どうか、なさいましたか?」
そんな私に気づくと柊さんは煙草を咥えたまま、こちらを見る。
少しくぐもった声がいつもの彼とは違った感じに見せる。
「い、いえ!なんでもないです!そ、それより。綺麗ですね、春の海って!」
私は赤くなった頬を隠すように海の方へと視線を逸らす。
それでも、多分…柊さんは私を見ていたんじゃないかって、そう思った。
なんとなく、だけれど。
「奏様は、連れて行き甲斐がありますね」
「へ?」
振り返ると、ふっと笑みを見せた柊さん。
その顔が…私には本当の柊さんのような気がして。
私の心臓がまた大きな音を鳴らし始めた。
「ご子息や御堂さんが奏様を甘やかすお気持ちが、わかる気がします」
「そ、そうですか?」
「えぇ」
言い終わるなりふっと視線を逸らすと、また白煙がうっすらと上がった。
「奏様は何事にも素直でいらっしゃいますからね」
そっと見つめたその横顔にうっすらと浮かんだ笑み。
その大人な表情から、私は目線が離せなくなった。
今日の柊さんは、よく…笑う気がするんだ。
それだけで、私の心臓は爆発寸前。
いや、もしかすると止まっちゃうかも。
「そ、そうだ!」
ドキドキは最高潮。絶対に止まることの無いこの心臓が止まってしまう前に。
「柊さんに…その、お返しです。バレンタインデーの…」
そう言って渡した綺麗にラッピングされた包み。
それを柊さんは驚いた顔をして見ていた。
「その…気に言ってもらえるかはわかりませんが。携帯灰皿です」
「…」
「でも…」
「はい?」
「煙草の吸い過ぎは、身体に良くないです、よ?」
柊さんは何も言わない。私はなんとなく彼の顔を見れなくて…プレゼントに視線を落としたままだ。
その視界にすっと綺麗な手が入ってくる。
細くて長い…綺麗な指だ。
「ありがとう…ございます」
表情は見れなかったけれど、きっと柔らかい表情をしていたと思うの。
だって、声が…柔らかだったから。
「…いえ、こちらこそ」
恥ずかしい半面、嬉しいような…そんなくすぐったい気持ち。
柊さんはこれを使ってくれるだろうか。
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