いつもよりなんだか騒がしかったランチもすぐに終わり、今は休憩中。
 雲ひとつ無いと言っていいほどの晴天。
 青い空がやけに眩しく見えた。

「ねぇ…?」
「うん?」

 空を見上げながら、裕次お兄ちゃんが声を掛けてくる。

「ありがとう」
「どうしたの?急に」

 急に改まった裕次お兄ちゃんに、少しだけ笑いながらの返事。

「俺、すんごく楽しい」
「本当に?それなら、良かった」
「だから、ありがとう」
「ふふっ。どういたしまして」

 そういうと、裕次お兄ちゃんはごろんと芝生に寝転がった。

「なんか、こういうデートも良いね」
「でしょ?」
「うん。すごく良いね」
「うん」

 そのすぐ近くでは、コジロウがくるんと身体を丸くしてうとうとしている。
 まるでその姿が猫のようで。なんだか私はおかしくなった。

「奏ちゃんも寝転がったら?気持ち良いよ?」

 身体をこちらに向けて、少し上目遣いでこちらを見る裕次お兄ちゃん。

 そんな裕次お兄ちゃんの隣に寝転がるの?
 無理!無理!

「わ、私は良いよ。充分気持ち良い」
「そう?」
「うん」

 その視線に耐えられなくなって思わず思い切り空を見上げた。

「じゃあさ」
「何?」
「ここ、使って良い?」
「え?」

 そういうと、裕次お兄ちゃんは私の膝を指差した。

「膝枕?」
「うん!」
「…良いよ?」
「やった」

 小さくガッツポーズをすると裕次お兄ちゃんは嬉しそうに私の膝に頭を乗せる。
 私はというと、なんだか恥ずかしく思わず少しだけ身を堅くしてしまったのだった。

「あぁ、気持ち良い」
「なんか…恥ずかしいね」
「ふふっ。奏ちゃん、顔赤いね」
「ゆ、裕次お兄ちゃん!こっち見ないでよ!」
「えぇ。だって、奏ちゃんの顔見たいもん」
「恥ずかしいからだめー!」
「えぇー」

 そう言いながらゴロゴロする裕次お兄ちゃん。なんだかその行為がくすぐったくて。
 思わず私は揺れる金色の髪をぐっと押さえた。

「わっ!何するの?」
「裕次お兄ちゃんが動くから!くすぐったいのー!」
「あはは、そっかー」

 けらけらと笑う声が聞こえて来る。

 あ、コジロウはもうすっかり夢の中みたい。

「なんかさー」
「うん?」
「俺、すごく幸せ!」
「そう?」
「うん。すごく幸せ」
「なら、良かった」

 ふわりと風が吹きぬける。
 少しだけ肌寒い気がしたけれど、膝元だけは暑いくらい。

 暫くすると、寝息が聞こえてきた。

「あ…」

 子どもみたいな寝顔を見て、思わず笑ってしまう。

 今は、私だけが…独り占め。


 3月14日の昼下がり。
 ホワイトデーのお返しは、ゆっくりとした幸せな時間でした。


―Fin―

→あとがき


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