「奏ちゃーん!」
「なぁに?裕次お兄ちゃん」
「ホワイトデーなんだけれど、俺とデート…」
「しないよ?」
「しよう!…って、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!」

 それは思いも寄らない悲劇…だったに違いない。
 よく晴れた日の庭先で。裕次お兄ちゃんは私の言葉を耳にした途端、目を丸くさせ…そして、その後大きく肩を落とした。

「どうして!?ねぇ、奏ちゃん、どうしてー?」

 裕次お兄ちゃんはまるでコジロウみたいな目をして私に訴えかけてくる。

 裕次お兄ちゃん…これはね、いじわるしてるわけじゃないの。
 だって、私だって裕次お兄ちゃんとデート…したいんだもん。

「ねぇ、裕次お兄ちゃん?」
「何?何?」

 私が話を始めると、裕次お兄ちゃんは早く早くとせかすように相槌を打つ。
 その姿を見て一つ溜め息。それは嬉しいのと、寂しいのと…ちょっと複雑な溜め息。

「3月14日って、何曜日か知ってる?」
「え?日曜日だよ?」
「そう。日曜日なの」
「それが、どうかした?」
「裕次お兄ちゃんさ、最近…ものすごく忙しいでしょ?」
「…う」

 そう。私が気にしているのは…裕次お兄ちゃんの体調のこと。
 最近、大学のみならず西園寺家次期党首としても忙しい毎日を送っているようで。
 唯一ゆっくり出来るお休みの日が、まさかのホワイトデー。
 私だって、裕次お兄ちゃんとお出掛けしたいとか思うけれど…。
 だけれど。
 大好きな裕次お兄ちゃんのことだからこそ、心配なのだ。

「私ね、心配なの。最近…あんまりゆっくり休めてないでしょう?」

 私の言葉に裕次お兄ちゃんは小さく頷いた。
 ここで嘘をついても意味がないと思ったのだろう。
 だって、相手は私。裕次お兄ちゃんが忙しいことなどよくわかっているのだ。

「だけど!だけどね!?奏ちゃん!」
「何?」
「俺は、折角のホワイトデーなんだよ?その日を奏ちゃんと過ごしたいの!」

 両の手を顔の前でぴったりと合わせてお願いのポーズをする裕次お兄ちゃん。
 そんな裕次お兄ちゃんを前に私も「だめ」とすぐには言えなくて。

 だって、私だって…

 何か、良い方法…ないかなぁ。

 と、そんなことを考えていると、ふわふわとした毛をなびかせてコジロウがやってきた。

「ねぇ、コジロウー!お前も何か言ってくれよー」

 コジロウの姿を見るなり、裕次お兄ちゃんは子どものようにコジロウのその首に抱きついた。


 …あ。そうだ。


「ねぇ、裕次お兄ちゃん」
「なぁに?」
「デート、そんなにしたい?」
「したいしたい!もちろん!」

「それじゃあ、条件があるの」


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