「俺、実はすんごくドキドキしてるんだ」
「裕次お兄ちゃんが?」
「そう。だって、奏ちゃんと一緒にいるんだよ?」
少し情けない笑顔を見せながらぽつりぽつりと話すその声は、なんだかいつもの裕次お兄ちゃんじゃないみたい。
「だって、俺…」
だんだんと消えていくオレンジ色の空。
温泉街も一つ一つと明かりが燈り始めていた。
「奏ちゃんが好きなんだもん」
そして、また跳ねる心の音。
「だから、今日…まだ一緒にいたいって思ったんだ…」
その音から、今度は鳴り止まない早鐘のように響く心音。
ねぇ、それ、本当?
ぎゅっと私の手を握ると、ふわりと自分の頬に当てて。
私のドキドキは止まらなくなっていた。
「私も…」
「裕次お兄ちゃんと一緒にいたい」
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