さて。
今…私は、どこにいるでしょう?
「奏ちゃん!こっちこっち!」
「え!?ちょっと、待ってよー!」
手をぶんぶんと振りながら笑顔で私の名前を呼ぶ声。
その姿は…
「裕次お兄ちゃんってば!」
私は裾を押さえながらカラコロと音を立てて駆け寄る。
そう。
今、私…浴衣を着ているんです。
「だって、おいしそうなもの見つけちゃったんだもん。あ、これみんなへのお土産にしようか?」
「もう!さっきも同じこと言ったじゃない。どれか一つにしようよ」
そして、彼…裕次お兄ちゃんもまた、浴衣を着ているんです。
さて。
今、…私たち…は、今どこにいるでしょう?
それは、数日前のことだった。
「え!?日帰り温泉?」
思わず変な声を出してしまったのは、数日前の夜7時頃だったと思う。
急に私の部屋を裕次お兄ちゃんが訪ねて来たのだ。
「そう。日帰り温泉!どうかな?」
裕次お兄ちゃんはとても嬉しそうに話を進める。
そういう私はというと、頭の中が未だに整理できていなかった。
「ちょっと待って。なんで急に温泉?」
「え?あぁ、実はこの間見てたテレビでね、素敵な温泉街を見たんだ!」
子どもみたいな笑顔で続ける裕次お兄ちゃん。
「そうだったんだ…って。あのね?」
「うん?」
「どうして、日帰り温泉旅行に行こうなんて思ったの?」
そうだ。これが、私の最大の疑問。
「えっとねぇ、ホワイトデーにデートしたいと思ったから」
…ホワイトデー?
「デート!?」
そして…私はその日二度目となる変な声を出してしまったのだった。
それからの話はこうだ。
裕次お兄ちゃんは、私からのバレンタインチョコのお返しに何かしたいと思っていたんだそう。だけれど、なかなか良い案が思いつかなくて。
と、そんな時にたまたま見たのが温泉街の特集番組。
それを見て、「そうだ!日帰り温泉デートに誘おう!」って思ったんだって。
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