「どう…して?」

 私の口から出てきたその言葉は、どこか震えていた。
 それは、掴まれた手が…どこか震えていたからかもしれない。

「だって、奏ちゃんが…こんなにも可愛いから」
「そ、そんなこと…」
「ある」
「え?」
「可愛い」

 そんなこと、言われたら…赤い顔、直らなくなっちゃうよ。

「俺ね」
「…うん」
「奏ちゃんに言いたいことがあったんだ」
「うん…?」

 少しは落ち着いてくれたと思った鼓動。
 今度はやけに大きく耳に響いてくる。
 声、聞き取れる…かな。

「バレンタインの時、ね?」
「うん」
「俺にチョコくれるって言ってくれた時、すごい嬉しかったんだ」
「そうなの?」
「うん」

 話をしながら、だんだんとその表情が見えるようになる。
 伏せられていた顔はもうこちらを向いていて、その碧い瞳に私は囚われた。

「あの日のこと、覚えてる?」
「勿論…」

 甘くて苦い、あのことも。


「嫌…だった?」


 不安そうに揺れた瞳。
 それは、きっと、あの日のことを思っているんだろう。

「そんなこと、ない」

 震える声を、自分では止める事ができなくて。

「だって…私は……っ」

 その言葉を告げようとした時、震える声が止まった。
 止めたんじゃないの。止まったの。

 淡いあの人の香りを鼻先で感じたから。


「その続きは、俺に言わせてよ」


 触れるほどに近いその紅を震わせて。
 その吐息が自分の唇に掛かるほどの距離で、
 その言葉は紡がれる。


「俺はずっと奏ちゃんが好きだった」


 その言葉を聞いて、頭が理解した頃…一筋の涙が零れて、
 それが落ちる前にもう一度…それは交わされた。


 紅と紅が淡く触れる…小さな約束。


 一方通行だと思っていた私の想いは、違っていたんだね。
 ほら、こんなにも近くに感じれる。

 ねぇ?
 この服も、この靴も、触れているこの熱も、その笑顔も。
 全部全部、私にとっては愛しいもの。


「行こうか?奏ちゃん」
「うん」

 触れる熱に絡む指先。

 愛しいその熱を、私はきっと離さない。


―Fin―

→あとがき


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