日曜日。
 私はあの日選ばれた服を身に纏い、部屋で一人そわそわとしていた。
 着ている服は白黒のワンピース。スカート部分が切り替えでフリルになっていて、シンプルな色使いなのにとても凝った作りになっている。
 靴は抑え目なシルバーのパンプスだ。ついでに赤いハートをモチーフにしたペンダントが胸元で揺れている。
 髪型だっていつもと違う。つい先程、御堂さんが来たかと思ったら「裕次様から頼まれまして」と言われ、あっという間に可愛いヘアスタイルに変身。

 簡単に言うと、今日のコーディネイトは全て裕次お兄ちゃんが決めたものってこと。

「裕次お兄ちゃん、一体どういうつもり…なのかな」

 今日はホワイトデー。きっと裕次お兄ちゃんにとっても忙しい日になるだろうと思っていた。
 確かに…少しは思っていたよ。裕次お兄ちゃんと一緒に居たい…とか。

 でも。それは私の一方通行の想い故。
 裕次お兄ちゃんにとっては、きっと私は妹でしか、ないだろうから。

 だけれど、だけれど。
 私は心の奥底の方、どこかで…期待してる。


 裕次お兄ちゃんの気持ち。


 コンコン…コンコン…

「はぁい」

 そんなことを考えていると、元気の良いノック音が耳に飛び込んできた。

「俺、裕次!奏ちゃん、入っても大丈夫?」
「う、うん。どうぞ」

 ドアを開けようとしたと同時に、それは開いた。

「…!」

 私は思わず言葉を失った。
 だってそこに居たのは、大好きな裕次お兄ちゃん。
 しかも、今までで一番…かっこいいって思ってしまうくらいの。

 ブラックジーンズと黒のジャケットを合わせたその姿は、カジュアルなのにどこか大人っぽくて。でも、赤くて大きなストールが鮮やかに…どこかいつもの裕次お兄ちゃんを思わせている。
 もう、なんでこの人はこんなにかっこいいんだろう。

 と思っていると…

「…っっ」

 急に裕次お兄ちゃんがしゃがみこんでしまった。

「え!?ど、どうしたの?裕次お兄ちゃん?」

 慌てて裕次お兄ちゃんの顔を覗き込もうと自分もしゃがむと、裕次お兄ちゃんは顔を伏せたまま私の手を取った。
 その少しだけ熱い…大きな手に、私の心臓は大きく跳ねる。
 勝手に心臓が大きな音で鳴り出して、跳ね回って。まるで自分のものではないみたい。

「ちょっと…今、見ないで」
「なんで?大丈夫?調子悪いの?」
「違う」
「それじゃあ…」

「俺、今さ、顔赤いの」

 そう…小さな声で言うと裕次お兄ちゃんは目線だけ上げるようにこちらを見た。
 ちょうど上目遣いのようなその表情。
 確かにその頬は赤く染まっているようだったけれど…そんなことされたら私の心臓がもたないよ…。


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