「は?」

 きょとんとする雅弥くんの掌に乗っかったもの。
 それは私が用意したマシュマロだ。

「マシュマロが良いんでしょ?」
「え、あ、そ、そうだけどよ…。これ…」
「バレンタインデーの、お返し。チョコもらってるし」

 私はあくまで何食わぬ顔でそう答える。
 雅弥くんの顔は…少しだけ赤かった。

「奏、これ…」
「いらないなら、あげない」
「い、いらないわけねぇって!」

 その言葉と一緒に力がこもる掌。

「あのね、雅弥くん」
「な、なんだよ…」
「私も、マシュマロが良いなぁ」

 ねぇ、雅弥くんも…意味、知ってるんでしょ?

「さ。休憩終わり!出口探そう?」

 背中を預けていた壁から離れ、来た道とは逆を行こうとする。

 だけれど。
 歩き出せなかった。

 背中に温もりを感じたから。

 ぎゅっと回された腕にすっぽりとはまる。
 片方の手は未だ結ばれたまま。顔のすぐ近くに彼の髪と吐息を感じた。

「ありがと」
「…ん」
「なぁ?」
「今度は、何?」

 あぁ、きっと…振り返った先にいるのは、
 これから『唯一の人』になるだろう人だ。


「今度は、マシュマロ味でも、いいか?」


 答えは勿論…イエス…。


―Fin―

→あとがき


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