「なかなか…手強いね」
「あ、あぁ…」
一体どのくらいぐるぐると回っただろう。
片手をついて、なんてこともやってみたのだけれど、一向に出口らしいものは見つからない。
おまけに、誰にも会わなかったり。
「せめて、誰かに会いたいものだよね。そっちは行き止まりでしたかー?って」
「確かにそうかも…。だぁ、もう!とりあえず、休憩休憩!」
そう言うと、雅弥くんは迷路の壁にもたれかかった。
繋がれたままの手は雅弥くんに寄って引き寄せられ、私も一緒にもたれかかる。
「こんなに難しいと思わなかった…。大迷路、なめてたよ、全く」
「雅弥くんがそういうこと言うの、珍しい」
「そうか?」
「うん。だっていっつも勝気な発言してる」
「なんだ、それ」
「あ、俺様っぽい、かな?」
「それこそなんだよ!」
声は空気に溶けて馴染んで行く。
笑い声も何もかも、なんだか2人しかこの世界に居ないみたいで。
上を見上げれば何もない空。
あぁ、こういうのって気持ち良いかも。
「…なぁ?」
「なぁに?もう行く?」
上を見上げたままの格好で話を続ける。
でも、雅弥くんは違った。
だって、視線を感じたから。
だからこそ、私は視線を空へと向けたままでいたのだ。
「奏さ、」
私の質問には答えないまま、会話は続けられた。
「マシュマロとクッキー、どっちが良い?」
「…はい?」
その唐突な質問に思わず雅弥くんを見てしまった。
あぁ、ダメだ。
この瞳を見たら最後。私はもう視線を外せない。
「俺はマシュマロがいいなとか思ってんだけど」
「マシュマロ…?」
実は、この質問にドキッとしてしまったりしている。
どっかで聞いたことあるんだ。
お返しで…マシュマロは本命。クッキーはそれ以外。
だから、じゃあないけれど。
私の鞄の中には…ラッピングされたマシュマロのお菓子が入っていたりする。
昨日作ったものだった。
「お前は、どっち?」
その言葉の後、静寂が流れる。
風のせいで、どこかで木々が揺れる音がした。
「私は…」
言おうとした時、きゅっと握られた手にきつい温もりを感じた。
彼の目は、真剣だった…と思う。
「…こっち、かな」
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