大層贅沢なバレンタインを過ごしてから…1か月が経とうとしていた。
あの日以来、蓮さんとはあまり会っていなかった。
「別に、寂しいわけじゃないけれど、さ」
学校で会っても、それは先生と生徒として。今までのうざったさはどこへ行ったのかというくらい、いわゆる普通に過ごしている。
それは家庭教師の時もそうで。
蓮さんは本当に普通の『先生』として私の前に立っていた。
今日は蓮さんは来ない。
本当は家庭教師の日なのだけれど、先ほど連絡が来たのだ。
『すまんが、今日はちょっと予定が入ってしまってな。悪い!奏』
なんの予定かなんて野暮なことは聞かなかった。
蓮さんはあんな風に見えても…一応東条院家の次期党首。
それなりに忙しいということはわかっていた。
それなのに、私の家庭教師も引き受けてくれているのだ。
最初は嫌だとしか思っていなかったそれも、そんなことを考えているうちに楽しいものに変わっていたのだと、こんなときに思う。
チョコレートタワーでチョコフォンデュを楽しんだあの日。
蓮さんはそれよりも嬉しそうに私の作ったチョコレートを食べてくれた。
「あ、そういえば…明日ってホワイトデーだった気がする…」
今まで気にすることもなかったその日は、確かに明日に迫っていた。
「一応…何か用意しておいた方が…良いかな?」
土曜日の昼下がり、そんなことをぼんやりと考えながら…私は身支度をし始めるのだった。
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