どれくらい歩いただろうか。
瞬くんと話しながら歩くその道は、全然苦痛ではなくて。
ただ、結構歩いているということは肌が感じていた。
少しだけ、肌寒い風を感じていたから。
「あと、もう少し」
そう言った瞬くん。未だにその行き先は教えてくれない。
陽はだいぶ傾き、もう暮れる寸前だ。
「この先だよ」
いつの間にか繋がれていた手の温もりを感じながら、少し瞬くんに手を引かれるように歩く私。
着いた先は高台だ。
「わぁ!すごい」
思わず立ち止まって見渡した景色は絶景。
ぽつりぽつりと灯され始めた明かり、車のライト、そして、見え始めた星。
「もう少し暗くなったら、もっと綺麗なんだ」
きっと、明かりがある分…プラネタリウムに比べたらなんてことない星なんだろう。
それでも、家の近くではこんなにも綺麗なものは見れないだろう。
「すごいすごい!だから、今日の待ち合わせ時間…ちょっと遅かったんだね?」
「そう。ごめんね、教えずに連れて来て」
「ううん!素敵なところに連れて来てくれてありがとう、瞬くん」
まだ冬の星座が残る夜空。
星座にあまり詳しくない私がわかるものと言えば、オリオン座くらいなものだ。
「どうしても、奏…ちゃんと一緒に見たかったから」
握られた掌がぎゅっと…強く結ばれる。
その思ったよりも力強い熱に私は思わず瞬くんを見る。
瞬くんは、私を見つめていた。
「瞬、くん?」
胸を撃ち抜いた視線。息が詰まるほどの鼓動が始まった。
「僕は、ずっと奏ちゃんを見てたけれど」
ふわりと笑ってみせる瞬くんだったけれど、それはいつもとはちょっと違って見えた。
少し大人で、真剣な目をしていたから。
「ずっと、好きだったんだ。奏ちゃんが」
それは、空気に触れるとすっとどこかへ消えてしまうような、そんな魔法のような言葉だった。
私はその言葉の意味を、あまりにストレートな言葉にも関わらず考える。
好きな人が、自分のことを好きだと言ってくれた。
なかなか直結しない…いや、信じられない言葉に私は自然と涙を流していた。
「奏ちゃん?」
少し不安そうな声と表情。それとは反対に握られた手にきゅっと力が入る。
「うれ、しくて…」
私は笑顔を作って返事をするのだけれど、どうしても涙のせいでおかしな顔になってしまう。
『好き』だと言われることって、こんなにも素敵なことだったんだね。
瞬くんは少し目を丸くした後、頬を少し赤く染めた。
そして、
あの日よりも、少しだけ…
長いキスをした。
綺麗な夜空に誓いましょう?
いつか、またここに一緒に来るって。
いつまでも、一緒にいるって。
「ねぇ?瞬くん」
「何?」
「プラネタリウム見に来たら、また、ここにも来ようよ」
「復習?」
「ううん。プラネタリウムで予習」
ふわふわと流れる温かい空気。
ひんやりと火照った頬を冷やす風。
空に輝く星に、そっと願いを込めたのは
私だけじゃ、ないよね?
―Fin―
※「プラネタリウムのふたご」著者:いしいしんじ より
→あとがき
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