コンコン。

 少し控えめな木の音が鳴る。
 ドアをノックする音だ。

「は、はい!」

 慌てて返事をすると、自分がドアノブに手を掛ける前にそのドアが開かれた。

「奏お姉ちゃん?時間だけれど…準備出来た?」
「うん!ちょうどだよ。時間ぴったりだね」
「それなら、良かった」

 控えめに開かれたその扉が、声と共に徐々に開かれていく。
 そこに立っていたのは瞬くんなのだけれど…。

「わぁ…」

 思わず私は溜め息と一緒に声を漏らしてしまった。

 だって、瞬くん…すごく大人っぽいんだもん。

「え?な、何?どうしたの?奏お姉ちゃん?」
「え!?あ、ごめん。その…瞬くん、大人っぽいなぁって…」

 まじまじと見る私に瞬くんは顔を真っ赤にして照れている。

「変…かな?」
「そんなことないよ!すごく似合ってる」

 本当は「かっこいい」って言いたいんだけれど…その言葉を口にしたら…私の顔も真っ赤になってしまいそうで。

 瞬くんは白シャツに黒色のベストを合わせた、いつもとはちょっと違った雰囲気の服装。パンツも抑え目なベージュでクロップドパンツのようにロールアップしてあるし…。
 子どもっぽい雰囲気を残しながら、どこか大人で。
 私は思わず自分の格好を見てしまったりした。

「どうかした?」
「え、あぁ、その…私、子どもっぽくないかなって…確認」
「ふふっ、なんか面白い」
「えぇ!?そうかな?だって、瞬くんが大人っぽいから…隣にいて大丈夫かなって」
「大丈夫だよ。すごく可愛い」
「え、あ、ありが…とぅ…」

 ふわりと笑う瞬くんから、あまりに自然に出てきた「可愛い」という言葉に私の心は破裂寸前…です。声だって空気に溶けて消えちゃいそう。

「じゃあ、行こうか?」
「あ、う、うん!」

 戸惑う私を余所に瞬くんが声を掛ける。
 慌てて鞄を手に持つと、パタンと音を立てて扉を閉めた。

 時刻は午後3時。
 瞬くんと約束した時間。
 出掛けるには少しだけ遅い時間のような気がしたけれど、何か訳があったのかな?


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