それからまもなくして。裕次お兄ちゃんは少し息を切らしながら戻ってきた。
「ごめんごめん!」
「ううん。良いけれど、どうしたの?」
「え!?あ、うん、えーっと…そうだ!これからパレード始まるんだって!」
私の質問をやや強引にかわすと、裕次お兄ちゃんはまた私の手を引いた。
私もなんだかその様子にそれ以上聞けなくて。
そのまま手を繋いでパレードの通る道沿いへと歩いて行った。
パレードの音楽が鳴り響く。
それはさすがディズニーランド!エレクトリカルパレード・ドリームライツと言うだけはある。
だって、真っ暗な夜をまばゆい光とディズニーミュージックであっという間に明るい豪華な夜にしてしまったのだから。
「すごい!綺麗!」
気づけばその長い長いパレードに釘付けになっていた。
「本当だねぇ」
その声と共に、ふわりと鼻をくすぐった香り。
それと、肩の重み。
「ゆ、裕次お兄ちゃん!?」
隣にいるとばかり思っていた裕次お兄ちゃんが、気づいたら私の後ろにいて…。
私にもたれかかるように、ぎゅっと後ろから抱き締めていた。
「ん?何?」
「な、何って、その…」
「…だめ?」
耳元で囁かれた言葉。
賑やかな音楽が一瞬止まって、辺りが静まり返ったんじゃないかと思った。
「だめ…じゃない」
私はそう言うしかなくて。
あぁ、暗くて良かった。だって、私の顔…真っ赤だもん。
「ねぇ、奏ちゃん」
「何?ど、どうしたの?」
「携帯、貸して?」
「へ?携帯?」
私はその言葉の意味もわからないまま、素直に裕次お兄ちゃんに携帯を渡した。
すると…
「はい。これでOK」
それは、ターコイズの色をしたレザーストラップだった。
「え?これって…アドベンチャーランドの…?」
ミッキーの耳にぶら下がったレザーストラップには『KANADE』と書かれ、その後ろにはハートのリベットまで付いている。
そのさらに下には大好きなスティッチのチャームが付いていた。
「そう!そして、じゃーん」
裕次お兄ちゃんの陽気な声と共に出てきたものは…
「あぁ!」
それは裕次お兄ちゃんの携帯電話。
そして、そこには全く同じターコイズ色の『YUJI』と書かれたレザーストラップが付いていた。
「今日はホワイトデーだからね。お揃い」
嬉しそうな声が耳元で響く。
私は泣きたいくらい嬉しくなった。
「素敵なプレゼント…ありがとう。私なんて、何も渡せてないのに…」
少し震える声を感じながら、そのストラップを手に取る。
パレードは終盤に差し掛かっていた。
「そんなことないよ」
「でも…」
「じゃあさ」
「うん?」
たくさんの明かりの中、ミッキーたちがやってくる。
「今、頂戴」
「え?今?な、何が良いの?って、何を渡したら…」
気づけば、眩しいくらいの明かりに照らされた裕次お兄ちゃんの顔を見ていた。
…チュッ…
「俺が欲しいのは、奏」
それは、一瞬の出来事。
気づいた時には、嬉しそうな笑顔の裕次お兄ちゃんの顔が目の前にあった。
「わ、私!?」
「そ。奏。俺、奏のこと、好きだから」
笑みの中に見た、男の人の真剣な瞳。
パレードは最高潮。
「奏は?」
音楽が鳴り響く。光があたりを包んでいく。
「私も…―」
ストラップのチャームがカチリと音を立てた。
もう一度重なったその時に。
それは、魔法。
きっと、一生解けることのない。
一瞬で…永遠の魔法。
―Fin―
→あとがき
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