裕次お兄ちゃんを探して、部屋も書斎も温室まで探したけどみつからない…
「どこに行っちゃったんだろ…」
溜息をひとつついて屋敷へと戻ろうとした私の足に何かが飛びついてきた。
「キャッ え?コジロウ?!もう、びっくりさせないで…って、お前なんでびしょ濡れなの?」
尻尾をパタパタと嬉しそうに振っているけど、良く見れば頭から尻尾の先まで濡れている。
「こら!待て コジロウ!」
「裕次お兄ちゃん!」
コジロウを追いかけて走ってきたのは、今の今まで散々探し回っていた裕次お兄ちゃんだった。
「あ、奏ちゃん!コジロウ掴まえといて!」
裕次お兄ちゃんを見て走り出そうとしたコジロウを、私は咄嗟に抱きかかえた。
「ありがとう♪天気もいいからキレイにしてやろうと思って、水をかけたら急に走り出してさぁ ずっと追いかけてきたんだよ」
見れば裕次お兄ちゃんはズボンの裾を捲くり上げて、手には犬用のブラシを持っている。
「裕次お兄ちゃんもずぶ濡れじゃない」
「コジロウを掴まえようと思って手を離したら、水の勢いであっちこっちにシャワーが暴れてさ 気づいたらこんな感じ」
おひさまみたいな笑顔で、ウインクをする裕次お兄ちゃんにつられて、私も自然と笑顔になる。
「あれ?奏ちゃんも水浴びしたの?」
「え?」
裕次お兄ちゃんに言われて服を見れば、せっかく着替えたワンピースが水に濡れてキラキラ光っていた。
「あー コジロウを掴まえたからだ!」
「えぇ?あ、ごめん!俺のせいだ!!!」
「ううん、いいんだけど…って、お兄ちゃん!ずっと探してたんだよ?」
「そっか、そうだよね。奏ちゃんが支度してる間に、コジロウをキレイにしてやろうと思ったんだけど。ホントにごめん!」
必死に謝る裕次お兄ちゃんの周りを、コジロウが嬉しそうに飛び跳ねている。
「裕次様、お嬢様。どうぞお使いください。」
優しい声に振り向けば、御堂さんがタオルを持って微笑んでいた。
「あ、要さん。ありがとう!」
「いいえ。窓からお二人の姿が見えたものですから…暖かいとはいえ、その格好では風邪をひかれますよ」
「そうだね。じゃぁ、奏ちゃん。今度こそ出掛けるからね!30分後にガレージに集合だよ♪」
「うん。わかった」
私たちは屋敷へ戻り、それぞれの部屋に向かった。
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