「奏ちゃーん!」
自室のドアを開けるといきなり、満面の笑みと共に自分の名前を呼ぶ声が飛び込んできた。
「わっ!ゆ、裕次お兄ちゃん!?ビックリしたぁ…」
「あ、ご、ごめん!」
私が胸に手を当てて一つ息をつくと、裕次お兄ちゃんは少しだけ目を丸くしてから急いで謝ってきた。
「それよりも…どうしたの?」
今日は休日。私は特に用事はなかったのだけれど…。
確か雅弥くんは部活、雅季くんは図書館に行くとか言ってたかな。
そういえば、裕次お兄ちゃんは昨日の夕飯の時…妙に浮かれてた気がするんだけれど。
「うん、あのね。奏ちゃんを誘いに来たんだ!」
「え?お誘い?」
「そう!今日、俺とちょっと出掛けない?」
いつもの眩しすぎるくらいの笑顔にウィンクが重なって、さらにその笑顔が輝いて見えたのは寝起きだったからか、それとも裕次お兄ちゃんがあまりに嬉しそうだったからか…。
「お出掛け?」
「あ、今日…奏ちゃん、用事ある?」
まだ上手く頭の働いていない私の歯切れの悪い返事に、裕次お兄ちゃんは少し不安そうな顔。
「ううん。今日は何も用事ないよ。どこに行くのかなぁ?って思って」
「そっか!じゃあ、朝ごはん食べてー支度して。そうしたら出かけようよ!」
裕次お兄ちゃんは嬉しそうに私の手を取るとぶんぶんと振った。
そして。
自分も支度をするからとその場で別れ…今に至るわけなのだ。
「お出掛けするって誘ったのは裕次お兄ちゃんなのにー!」
なかなか見つからないその姿に少しだけ苛立ちを覚えながらも、私は屋敷中を駆け回った。
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