「わあ、きれいーーーっ!!」
坂道を上りきり、平坦な道路に出ると、ちょうど視界が開けて景色が一望できる。
「あ、ほら奏ちゃん、海も見えるよ!」
「ホントだ!すご〜い!」
フェラーリでは、ほんの数秒で通り過ぎてしまうこの景色も。
今は、ゆっくりと自転車を漕ぐ裕次お兄ちゃんと一緒に、思いっきり楽しむことができる。
「お天気がいいから、遠くまでよく見えるね!」
「うん、こんなによく見えるなんて、車の時には気付かなかった!」
二人ではしゃぎながら景色を堪能しているうちに、自転車は下り坂にさしかかった。
「よーし、このまま下っちゃうよ!」
「え?なぁに? …! きゃあ〜〜〜ッ!!」
下り坂に入り、ぐんぐんスピードを上げる、赤い自転車。
周りの景色が一気に流れ、身体に、髪に、風を感じる。
「は、速いよ、裕次お兄ちゃん!」
2人乗りで重量がある分、自転車は、どんどんスピードを上げて坂道を下っていく。
予想以上のスピードに、思わず裕次お兄ちゃんの背中にぎゅっとしがみついた。
「アハハ、しっかりつかまっててね〜!」
子どもみたいに大きな声ではしゃぎながら、楽しそうにハンドルを握る裕次お兄ちゃん。
まっすぐな下り坂を、ジェットコースターみたいな勢いで、一気に下ってしまった。
「…ちょっと休憩、ね」
しばらく走った後、裕次お兄ちゃんは、小さな公園に自転車を進めた。
サドルから降りて私を振り返り、ウインクする。
その額には、うっすらと汗が浮かんでいた。
キラキラと光る汗に、金色の髪が風に揺れて…まるで映画のワンシーンみたいにカッコいい。
「そ、そうだ裕次お兄ちゃん、疲れたでしょう?私、水筒持ってきたんだ」
思わず見とれてしまった自分が恥ずかしくて、裕次お兄ちゃんから視線を外した私だったけど。
「……待って」
不意に、その腕を取られる。
「? どうしたの? 裕次おにいちゃ………!?」
気がついたときには、その大きな胸に、抱きしめられていた。
「お、お兄ちゃん!?////」
「飲み物より、こっちの方がいい」
心臓が、早鐘を打つように急激に音を立て始める。
裕次お兄ちゃんの香りと、汗をかいて少し熱を帯びた腕に包まれて…
私の心臓は、もう壊れそうなほどに高鳴っていた。
「…奏ちゃん、ドキドキしてる」
私を抱きしめたまま、少しくぐもった声。
「だ、だって……急だったから……///」
「俺も、だよ」
「え?」
思わず上げた顔が、そっと…裕次お兄ちゃんの胸に押し当てられた。
「(…ほんとだ……ドキドキ、いってる…)」
この鼓動は、自転車をたくさん漕いだから?
それとも……
「いつもね、奏ちゃんの事抱きしめたら…こんな風に、ドキドキするんだ」
「う、うん……」
「奏ちゃんは?俺に抱きしめられて、ドキドキしてくれてる?」
「………うん///」
そう、呟くのが精いっぱいで。
「ふふ、おあいこ、だね?」
少しだけ身体を離して、私の顔を覗き込んだ裕次お兄ちゃん。
お日様みたいにキラキラした笑顔で、もう一度、私をぎゅっと、抱きしめてくれた。
「さーーて、充電完了!」
自転車のスタンドを軽やかに蹴りあげると、その長い脚でサドルをまたいだ裕次
お兄ちゃん。
「出発しましょうか、お姫様?」
私の手を取って、その後ろに乗せてくれる。
「ねぇ、裕次お兄ちゃん」
「ん?」
「…今日、誘ってくれて、ありがと///」
「あはは、お礼を言うのはまだ早いよ。よーし、それじゃ、出発!」
私たちを乗せた真っ赤な自転車は、再び、心地よい風の中を走りだした。
← | ×