放課後はのんびりと


「ねえ?」
 あまりに自然すぎて、あまりにいつも通り過ぎて。
 ついつい曖昧な返事を返してしまう。
「あぁ?」
 もちろん、視線はどこか別の方向。
「…聞いてないでしょ?雅弥くん」
「え?や、そ、そんなこと…」
「ほら、やっぱり聞いてない」
 そう言って頬を膨らます奏。
「もう良いよっ」
「わ、ごめんごめん!」
 慌てて両手を顔の前で合わせても、もう後の祭り。
 なかなか機嫌は直りそうになかった。

 それは、奏と付き合い始めて少し経った頃のこと。

 付き合い始めたと言っても、特に何かが変わったわけでなく。
 変わったと言えば、俺の部屋に奏がよく来るようになったことと、俺が奏の部屋によく行くようになったこと。
 とはいえ、別に何かあるわけでもなく。なんとなく一緒にいるといった感じで。
 自分でも俺は甲斐性なしだなぁとは思う。
 けれど…

 本当は、ちょっと気恥ずかしいんだよな。

 なんとなく、なんとなくなんだけれど。上手く振舞えない。
 なんだか自分の中の歯車が上手くかみ合わないような。そんな気分。
「なぁ?」
「何?」
 おそるおそる声を掛けてみるけれど、やっぱり奏は少しだけ不機嫌気味。
「ごめん…な?」
「どうしようかなぁ」
 両腕を腕組みしながら素気ない態度。
 だけれど、ふっと表情が柔らかくなったなって思ったら「仕方ないなぁ」って小さな呟き。
 ほっと一安心。
「じゃあ、明日。一日私に付き合ってくれたら、許してあげる」
「…明日?」
「うん。明日、放課後…部活が珍しく休みだって言ってたでしょ?」
「あ、あぁ…」
「土曜日だから半日で終わりだし。学校終わったら、私に時間頂戴?」
 少しだけ目尻を下げて笑う彼女。
 その表情を見ていたら…

「あぁ。良いけれど…」

 俺はこう言って頷くしかないんだ。

 だって、この笑顔に惚れたんだから。
 俺の…一番の弱点かも。


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