待ち合わせは校門前


 いつも通りの朝のはずだった。
 起きて、顔を洗って、着替えをして。そして、食堂へ行く。
 いつも通りの朝のはずだったの。
 …部屋のドアを開けるまでは。

「奏ちゃん、おっはよー!」

 ドアを開けると同時に明るい声がした。
 その声は私の好きな声。だから、すぐにわかった。

「ゆ、裕次お兄ちゃん!?」

 突然の出来事につい声が裏返ってしまった。そして、誰もいないと思っていたため…その姿を見るなりビクッと体が跳ねた。

 …し、心臓に悪い…。

「あ、ごめんね。驚かせちゃったかな…?」

 裕次お兄ちゃんはちょっとしょぼんとした顔をして覗き込んできた。

「え、あ。うん。まさか、いるとは思わなかったから…」

 その言葉にちょっと肩を落として申し訳なさそうにごめんと謝る裕次お兄ちゃん。

「ごめんね…。ちょうどノックしようとしたらドアが開いたもんだから…」
「そうだったんだ。私もすごい驚いちゃってごめんね?」

 そう言うと、裕次お兄ちゃんはフルフルと顔を横に振った。

 …こういう仕草、可愛くて好きなんだよなぁ。

「それで、朝早くにどうしたの?」

 私は率直に聞いた。だって…不思議で仕方なかったから。

「あぁ!そうだった!忘れちゃうところだったよー」

 裕次お兄ちゃんはへらっと笑いながら言う。

「あのね、今度の土曜日は学校って言ってたよね?」
「うん。午前中だけだけれど。ちょっとした補講があるから。それがどうかしたの?」

 裕次お兄ちゃんは笑顔で質問を続ける。私の質問には答えずに。

「それで、その日の放課後は?予定何かある?」
「え?放課後?…は何もないけれど。どうして?」

 私の返事を聞いて、裕次お兄ちゃんは満面の笑みになった。
 私は状況が全く掴めず、頭の上にクエスチョンマークが浮かぶばかり。
 そして、やっとなんのことかを教えてくれた。

「えっとね。デートのお誘いです」
「で、デート!?」

 裕次お兄ちゃんの言葉に、また声が裏返ってしまう。それはすごく嬉しい言葉だったけれど、突然でまた驚いてしまったのだ。

「えー、奏ちゃん…俺とのデート嫌なの?」

 ちょっと寂しそうな顔をして裕次お兄ちゃんは言った。

「い、嫌なわけないじゃん!」

 すぐに返す答え。
 だって、裕次お兄ちゃんは私の…。

「うん、そうだよね。じゃあ、きーまり!土曜日の放課後は俺とデートね。土曜日はしっかり予定空けておいてね?」
「う、うん。わかった」

 裕次お兄ちゃんはそういうと嬉しそうに笑う。私はお兄ちゃんの一言一言にまだ戸惑ってばかりだ。

 それもそのはず。
 だって、裕次お兄ちゃんは私の好きな人。

 そして…

「…奏?」
「うん?何?」

 急に呼ばれた名前。この名前を呼ぶ声が私は好きだった。

「大好きだよ?」

 …この言葉には顔が真っ赤になってしまうけれど…。

「あ、朝から何言ってるの!恥ずかしいよ」
「あはは。奏、顔が真っ赤だよ」

 そう言いながら、頭を優しく撫でる裕次お兄ちゃん。

 そう。
 裕次お兄ちゃんは私のお兄ちゃんで、私の好きな人で…そして、私の恋人だ。

「食堂、行こうか?」
「うん」

 まだそうなってから日は経っていないし、誰も知らないことだけれど、ね。


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