君は誰にも渡さない


 最近少し悩んでいることがある。
 それは、『彼女』とのこと。

 …というよりは…

「奏、今日の課題もう終わった?」
「それが…解らないところあってまだ終わってないの!」
「じゃあ、教えてあげようか?どうせ数学でしょ?」
「本当に?助かるよー、雅季くん。そうそう、数学のね…」
 食事中の何気ない二人の会話だけがやけに鮮明に聞こえて来る。
 近くで裕次と雅弥が騒いでいても。それでも。

 悩んでいること。それは『彼女と雅季』とのことだ。

 彼女、奏と付き合い出したのはつい最近のこと。
 どうしても自分の気持ちが抑えられなくなって…あの日の放課後、やっとの思いで気持ちを伝えた。
 それから。なんだかんだであまり恋人らしいこともないまま…日だけが過ぎていっているのだけれど。
 そんな中、最近気づいたこと。
 奏と雅季の仲の良さ…。
 奏が来て、確実に雅季は変わったと思う。それはきっと良い方向で、良いことに間違いはないんだけれど。
 どうも、引っ掛かる。
「修一兄ちゃん?どうしたの?」
「え?あぁ、どうした?瞬」
「ボーッとしてたから」
「そ、そうか?」
 急に瞬に声を掛けられてドキッとする。意外と、彼は勘が鋭いから。
「お姉ちゃんと、何かあったの?」
「え?」
 ほら、思った傍から…。
「何もないなら、良いけれど」
 ふっとやわらかい笑みを見せる彼。単純に心配をしてくれているだけのようだ。
「ありがとう。大丈夫だよ」
 
 本当は、気になって仕方ないのだけれど。

 そう思っている間に、奏と雅季は食堂を出て行こうとしていた。
 本当は呼び止めたかったけれど…呼び止める理由も無かったから、ただその背中を見送った。

 …嫉妬、なのかな。
 嫉妬なんだろうな。
 でも。
 弟、に?


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テーマ「人外ファンタジー」
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