「へへ…大丈夫だって。ちょっと、疲れがたまっちゃっただけだから」
力なく笑う彼女の姿に俺はすでに泣きそうだ。
いつも一緒に居たはずなのに、どうして気づかなかったんだろう。
疲れがたまってたの?
俺と一緒に居るときはいっつも笑顔で…そんな素振り、一度も見なかった。
「裕次お兄ちゃん、なんで泣きそうな顔してるの?」
ふわりと笑う彼女と手が頬をかすめる。
たったそれだけなのに、掌から熱過ぎるくらいの熱が伝わってきた。
「だって、俺…いつも奏ちゃんの傍にいたのに気づかなかった」
「そんなの、仕方ないよ。裕次お兄ちゃんのせいじゃないし」
すとんと椅子に腰掛ける俺を、彼女は目で追いかける。
その顔は変わらず笑ったままだ。
「最近、ちょっと眠れない日が続いてたから、寝不足もあるんじゃないかな?」
「そうなの?」
「うん。寝つきが悪かったんだよね」
そういえば、彼女はよく欠伸をしていた気がする。
その度に小さな声で「ごめんね」って言ってたっけ。
その言葉に俺の気持ちはどんどん沈むばかり。
こんなんじゃ全然ダメなのに。
「ねぇ、裕次お兄ちゃん」
「何?」
ずいと身体を乗り出して彼女のすぐ近くへと顔を寄せる。
「大丈夫だよ」と彼女は言うと俺の髪を優しく撫でた。
そして、小さな声でこう続けた。
「じゃあ、一つだけ我侭言っても良い?」
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