「奏ちゃん!お待たせ」
「裕次お兄ちゃん」
俺を見つけるなり、笑顔になった彼女を見て胸の奥の方がジーンと熱くなるのを感じた。
奏はすぐに助手席に乗り込む。その表情は本当に嬉しそうで、俺はそれだけで嬉しくてたまらなかった。
「ねぇ、どこ行こうか?」
車を走らせながら横目でちらりと彼女を見て告げる。
奏は少しだけ悩むと、少し悪戯っぽく笑ってこう言った。
「私、行きたい場所があるんだ」
どこ?と聞いても場所は教えてくれず。
仕方なく、俺は彼女の道案内に従いながら車を走らせた。
「ここは…」
「えへへ。久しぶりに、来たくなっちゃって」
そこは、良く知っている場所だった。
だって、奏との始まりの場所だったのだから。
「わぁ!今日も綺麗な海だね」
車を降りてひとつ大きな伸びをする奏。辺りは時間の割に静かで、寄せては返す波の音だけが妙に大きく耳に届いた。
「うん。確かに気持ち良い」
ゆっくりと彼女の方へ歩いて行って呟いたその言葉は、あっという間にさざ波の音にかき消された。
「俺、ずっと会いたかったんだ。奏に」
奏の瞳を覗き込んで告げたその一言に、自分の今思っている全てがあった。
「私も、会いたかったんだ」
小さく微笑むと彼女もまた同じことを言った。
本当は…必ずどこかで顔は合わせていたんだ。
でも、それは俺たちの言う『会う』とはどこか違っていて。
寂しさを埋めるのではなく、寂しさを広げてしまうような…そんなものだった。
正面から奏をぎゅっと抱き締める。
自分の腕の中にすっぽりと入った彼女は、頬を摺り寄せるととても気持ち良さそうに微笑んでいた。
「ちょっとだけ、久しぶりだ。裕次お兄ちゃんの匂い」
そう、言いながら。
「うん、俺も」
その幸せを噛み締めながら。
そっと、彼女にキスをした。
会いたかったのは、自分だけじゃないと…そう知れた時、
すごくすごく嬉しかったんだ。
ありがとう。
やっぱり俺は、
君が大好き。
絶対に変わることのない…そんな気持ち。
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