「奏!良い話を持ってきてやったぞ!」
「…へ!?れ、蓮さん!?」

 ちょっと強めのノックがしたかと思ったら、すぐにバンッとドアが開いた。
 そして、そこに立っていたのは…蓮さん。
 蓮さんは今、教育実習生として教壇に立っている。だから、学校でもしゅっちゅう会っているんだけれど…。

 まさか、自分の部屋にやってくるとは思わなかった。

「とりあえず、落ち着いて下さい。ね?」
「あ、す、すまなかった…」
 そう言うと少しだけ赤い顔をして口をきゅっと結んだ蓮さん。
 なんだかその仕草がとても可愛らしくて。子どものようだなと思った。
「それで…どうしたんですか?それに、どうして家に?」
 いつもと同じスーツ姿。シャツの襟が少しだけ折れている。あと、縛っている髪も少しだけ乱れていて…慌ててきたんだろうなと思うと、なんだかそれもおかしく感じた。
「おぉ!そうだった。いや、な。今日は奏をデートに誘いに来たのだ!どうだ、嬉しいだろう?この蓮が…」
「えぇ!?デート!?」
 蓮さんがまだ話している途中で…思わず声を上げてしまった。
 確かに今まで…誘われなかった方がおかしかったのだ。学校内や下校時など、会えば声を掛けてくる蓮さん。あの日、出会った日以来気に入られているのはわかっていたのだけれど。

 ついにお誘いが来たか…。

 と、そこに。
「お嬢様?どうかなさいましたか?」
 私の声を聞きつけて御堂さんがやってきた。
「あ、御堂さん」
「っと、これは…蓮様」
 開いていたドアからひょこっと顔を出した御堂さん。そこで蓮さんの姿を確認すると、なんとなく何があったのかわかったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。
「…お茶を、お持ちいたしましょうか?」
 少し私に目配せをしながら遠慮がちに聞く御堂さん。どうしようか戸惑っていると…
「どうかしましたか?」
 今度やってきたのはまだスーツ姿の修一お兄ちゃんだった。
「し、修一先輩まで!」
 と、そこでやっと蓮さんの顔が戸惑っているような、どこか照れているような。そんな赤い顔をしていることに気づいた。

 まぁ、確かに…この二人が来たら仕方ないのかも。

「なんだ、蓮か。…奏さんに何かしたんじゃないだろうな?」
 怪訝そうな顔で修一お兄ちゃんが蓮さんを見ていた。
 蓮さんは少し固まってしまっていたようだが、その後全力で首を横に振った。
「本当だよ、修一お兄ちゃん。ごめんね、あたしが急に大きな声を出しちゃったものだから…」
「まぁ、奏さんがそう言うなら…。それより、蓮。話があるんじゃなかったのか?」
「そ、そうでした!では…失礼する。返事はまた…」
「え、あ…はい」
 そう言うと蓮さんは部屋を足早に出て行った。
 修一お兄ちゃんはその後を付いていって、残された私と御堂さんはつい笑ってしまった。
 あまりにおかしかったから。


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