「うーん、今日はココアが飲みたいです」
何気なく告げた言葉。
これがそもそもの事の発端だったのだと思う。
「おや、珍しいね。いつも紅茶を飲んでいるのに」
そう言うのは新聞を広げて座っていた修一お兄ちゃん。
その傍らには御堂さんがいて、修一お兄ちゃんにコーヒーを渡している。
こちらを見据えながら…。
「え、あ…うん」
そんな御堂さんの視線を気にしながら席に着く私は、なぜか曖昧な返事をしてしまった。
「ココアが飲みたくなることでもあったんですか?」
ふわふわと笑いながらそう言う修一お兄ちゃんの言葉に、御堂さんが少しだけ反応しているように見えるのは…私の気のせいだろうか。
「あ、うん。昨日友だちと電話してて。友だちが最近ココアにハマッてるって言って話していたから…なんだか私も飲みたくなっちゃって」
なんとなく上手く言葉に出来ないでいると、御堂さんはにっこりとこちらを見る。
さっきまで感じていたことは…気のせいかな?
「それでは、ココアをお持ちしますね」
一礼すると御堂さんは足早にその場を去っていった。
私に一抹の不安を残したままに。
「…要くん、どうしたんだろう?」
修一お兄ちゃんが御堂さんの後姿を見送った後、ぼそりと呟いた。
「どうかした?修一お兄ちゃん」
「あぁ、なんか要くんの様子が変だなぁって思っただけなんだが。まぁ、気のせいでしょう」
そう言って、コーヒーを一口。そしてまた新聞を読み始めた。
あれ?やっぱり…?
私の頭の上ははてなマークで一杯。
ついでに胸中は変な不安が渦巻いている。
だって。
御堂さんは、私の恋人だから。
「私…何か変な事言ったかな?」
ぽつりと呟いた声は、あまりに小さい声だったからか修一お兄ちゃんの耳には届かなかった。
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