放課後。
裕次お兄ちゃんに学校が終わったことをメールで告げるとすぐに返事が返ってきた。
『お疲れ様!じゃあ、校門前で待ってるねーv(^_^)v』
いつも通り、早い返信。
私は鞄に荷物を詰めて、足早に教室を出た。と、
「お、奏。今から帰んの?」
「雅弥くん!」
廊下でばったり雅弥くんに会った。雅弥くんは肩からスポーツバックを提げていた。これから部活があるみたい。
「帰るっていうか…裕次お兄ちゃんと待ち合わせしてるの」
「あ?バカ兄貴と?」
「そう。これから出掛ける約束してるから」
とても『これからデート』だなんて言えない…。裕次お兄ちゃんは平気で言いそうだけれど。
「あぁ、それで朝からバカ兄貴のテンションが高かったのか」
少し呆れ顔で雅弥くんは笑った。わかりやすいなと付け足して。
「じゃあ、私行くね。雅弥くんはこれから部活?頑張ってね」
「おう。じゃあ、また家でな」
お互いに手を上げてその場を去った。
靴を履き替えて、校門前へと急ぐ。
裕次お兄ちゃんは探さなくてもすぐにどこにいるかわかった。
だって、お兄ちゃんは『アイドル』だから。
「あ、奏ちゃん!」
私の姿を見つけると、裕次お兄ちゃんはぶんぶん手を振って居場所を知らせた。
大丈夫だよ、目立つからすぐにわかるよ…。裕次お兄ちゃんはみんなの注目の的だもん。
「ごめんね。待っちゃった?」
「ううん。そんなことない。よし、行こう?」
そう言うと、裕次お兄ちゃんは私の手を取って歩き出した。
「あれ?裕次お兄ちゃん…歩いてきたの?」
いつもはドライブ行こう!って言うから。ちょっと不思議に思った。
「うん。今日はね、歩いてきたんだ」
嬉しそうに裕次お兄ちゃんは言う。
「どうして?」
私はそのまま疑問をぶつける。すると、お兄ちゃんはいたずらっぽく笑ってこう言った。
「あのね、今日は奏ちゃんと放課後デートがしたいと思ったんだ」
「え?放課後デート?」
私の中でまたさらに疑問が増えた気がした。そんな私の気持ちを余所にお兄ちゃんは嬉しそうに続ける。
「そう。なんかさ、奏ちゃんのこと色々考えてたら…奏ちゃんが家に来るまでのことってあんまり知らないなぁって思い始めて」
そういえば、確かに兄妹になる前の話ってあまりしたことがなかったかも。
裕次お兄ちゃんはさらに続ける。
「それで、どんどん考えて行ったらね。前の学校での奏ちゃんはどんな感じだったのかなぁとか考え始めちゃってね」
「はは。裕次お兄ちゃんらしいね」
「そうかな?あ、それでね。そしたら、放課後とかはどんな風に過ごしてたのかなぁとか思って。全然生活が違ったわけでしょ?奏ちゃん、車の送迎に驚いてたもんね?」
「そりゃそうだよ。今まで車で登下校したことなんてなかったもん!」
裕次お兄ちゃんは嬉しそうに歩きながら話していた。
手は繋がれたまま。あまりに自然で兄妹だということを忘れてしまうくらい…。
「でね。そんなことを色々考えてたら…家に来る前の奏ちゃんを見てみたい!知りたい!って思っちゃったのだ」
裕次お兄ちゃんは私の顔を覗き込むように言う。その行動に私の心臓はドキンと跳ねた。
「そ、それでこのデートに繋がったの?」
私は少しだけ赤くなった顔を隠すように目を逸らしながら言った。
裕次お兄ちゃんは笑顔で答える。
「そう!だから、車では来なかったってわけ。奏ちゃんと手も繋ぎたかったしね」
私の頭の上に浮かんでいたクエスチョンマークが一つ一つ消えていった。
なるほど…それで急にデートしようって言い出したんだ。本当、裕次お兄ちゃんって唐突なことが多いなぁ。
「それで今日は朝からテンションが高かったんだね?」
少しだけいじわるっぽく言ってみた。
「そんなに高かったかな!?」
「さっき雅弥くんに会って話した時に言ってたよ。テンション高かったって」
そっかぁと言いながら、裕次お兄ちゃんは頬をかく。少し照れ笑いを浮かべながら。
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