「まあ、悩んでいても…仕方ないか」
 そう呟いて、改めて机に向かう。教科書を元に戻して。
 すると、またドアを叩く音は聴こえた。
 少しだけ控えめな音。
「はい?」
「修一お兄ちゃん?今、いいかなぁ?」
 それは今一番聞きたい声だった。
「どうぞ」
 かちゃっと小さくドアが音を立てて開く。そこに立っていたのは勿論、奏だった。
「どうしたんですか?」
「え、いや…その…」
 彼女はドアの前に立ったまま、俯いていた。
「何か、あった?」
「そうじゃなくてね?」
 不思議に思って、彼女に近づく。ぱっと覗き込んだ彼女の顔は…赤くなっていた。
「奏さん?」
「…急に会いたくなったから…じゃ、ダメ?」
 その言葉に今度は自分の頬が赤くなるのがわかった。

 それは…反則。

「ダメだなんて、言うわけないよ」
 そう言うのとほぼ同時に彼女を抱きしめる。
「俺も、会いたかったから」
 彼女は何かを言っていたけれど、ぎゅっと抱きしめたから声が籠もって上手く聞き取れなかった。でも、その力を緩めることもなく抱きしめ続けた。
「どうか、したの?」
 そんな様子に少し疑問を持ったようで、本日三度目になる言葉を掛けられる。
「なんでもない」
「本当に?」
 少しだけ身体を離した彼女が自分の顔を覗き込んで聞いてくる。
 そんなことされたら、嘘なんてつけないよ。
「…嘘」
「どうしたの?」
 ふぅっと一つ息をついてから、少し早口で言う。
「最近、雅季と仲良くないですか?」
「そうかな?勉強は前から教えてもらってるし…そんなことないと思うけれど」
 首を傾げながら彼女は言う。
 言われてみれば、そうかもしれない。でも、やっぱり引っ掛かるんだ。
「もしかして…やきもち?」
 そう言われてすぐに顔が赤くなったのがわかった。
「あぁ、やきもちやいてくれたんだ?」
「い、いや、その…」
 今度はくすくすと笑う彼女。そんな様子を見ていたら、すごく恥ずかしくなった。
「大丈夫だよ」
「え?」
「私が好きなのは、一人だけだよ?」
 そう言って、今度は彼女に抱きしめられる。その顔はすごく赤かった。

 あぁ、そうか…
 心配することなんて、なかったのか。

 奏を見ていたら、急にそう思えた。すごく単純な奴だなぁと我ながら思う。
「奏?」
「何?」
 ぱっと赤い顔をこちらに向けた瞬間を奪う。
 それは、少し甘くて長いキス。
「!し、修…」
「もう少しだけ…黙ってて」
 そして、続ける甘いキス。
 奏の顔は真っ赤なままだった。


 気づけば、僕は君依存症。
 君は誰にも渡さないよ。
 だって、
 離したりなんかしたら…
 僕は、壊れてしまいそうだからね。




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