自室に戻っても気になって仕方なかった。
 きっと、奏は雅季の部屋に行って勉強を教えてもらっている。
 それは、決して悪いことなんかじゃない。兄弟仲が良いことはすごく良いことのはず。
 だけれど。
 自分の気持ちはそう上手く納得してくれない。
 自分はこんなにも独占欲が強かったんだろうか。こんなにも嫉妬深かったんだろうか。
 溜め息ばかりが出てくる。
 と、そんなことを考えていたら、急に部屋のドアがノックされた。
「はい」
 少しだけ、淡い期待が湧き上がる。
「失礼します、御堂です」
「あぁ、要くんか。どうぞ」
 訪問者は期待していた人とは違った。少しだけ肩を落としてみたり…。
 そっと、心の中で謝る。
「どうしたんだ?」
「いえ、大したことではないのですが。先程、雅季様とお嬢様に紅茶をお持ちしたのですが、修一様もコーヒーが飲みたくなる時間なんじゃないかと思いましてお持ちしました」
 にっこりと笑って彼は告げる。
 …若干、聞きたくない情報も一緒に。
 決して彼は悪いことは言っていないのだけれど…。
「あぁ、ありがとう。もらうよ」
「かしこまりました」
 笑顔を崩さないまま、彼はコーヒーを差し出す。…すると。
「修一様?」
「うん?」
「どうか、されたのですか?」
「え?」
 彼は少し不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「教科書が…上下逆さまに置いてありますよ?」
「え!?」
 バッと机の上を見ると、確かに逆さまになっていた。仕事中に…考え事なんてするもんじゃないな…。
「お疲れのようですね」
 彼はくすっと笑いながらコーヒーを手渡す。
「確かに、そうなのかもな」
 きっと情けない笑顔で答えたに違いない。彼はやわらかい笑みを作ってこう言った。
「それとも、何かお悩み事ですか?」
「…」
 無言になった自分を見て、また彼は少し笑う。
「図星、のようですね」
「さすが、要くんだな」
「長い付き合いでございますから」
 彼は笑いながら言う。そんな彼に敬語は良いと告げると、勤務中だからと言ったが誰もいないからと続ける。どうしても、やっぱり堅苦しく感じるから。
「珍しいな、修一がそこまで悩んでいるのも」
「そうか?」
「いつもは、落ち着いているからな」
 全く…人のことをよく見ている奴らばかりだな、この家は。
「でも、その悩みを俺が聞くことは出来なさそうだな」
「え?」
「そう、顔に書いてあるよ」
「要くん…」
「でも、何かありましたら、私はいつでも修一様のお力になりますので」
 少しいたずらっぽく笑いながら、急にかしこまった口調で彼は言った。
 そんな様子が少しおかしくてついつられて笑ってしまう。
「ありがとう」
「いいえ。それでは、失礼致します」
 そして、彼はお辞儀を一つすると部屋を出て行った。


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