「…はぁ。ま、そんなわけで。俺も彼女を譲る気ないんだけどなぁ?」
「!?」
「た、巧くん…!」
扉に手を掛ければ、ガタッと音が鳴る。
その音と俺の言葉と共にこちらを一斉に見た2人に、内心ドキッとしながらも平静を装ってみたりして。
少しだけ足早に彼女の傍まで行って、目の前に居るクラスメイトに目をやった。
「そんなわけで。諦めてもらえるとありがたいんだけど?」
「…っ」
彼は少しだけ赤い顔をしていた。それはすぐ傍に居る彼女もそうで。
きっとそれは少しだけ傾いた陽のせいとかではなかったと思う。
彼は何も言わずに教室を出て行った。
暫く教室に沈黙が走る。
少しだけ開いた窓から風が入れば、少し重たいカーテンを揺らしていった。
「…はぁぁぁ」
「た、巧くん?」
なんか急に力が抜けて変な溜め息が出た。ついでにしゃがみこんでみたり。
俺、今かっこいい?かっこ悪い?どっちかな。
「良かった、あのタイミングで俺、教室に来て。ノート忘れた俺、グッジョブ」
「の、ノート取りに来たんだ…」
「奏ちゃんが取られるかと思ったけど」
「そ、そんなこと…!」
「ない、よね?」
きっと情けない笑顔だったんだろう。彼女の顔はまだ赤かったけれど、俺のその顔を見たらなんだか彼女もまた情けなく笑っていた。
そして、俺と同じ目線になるように彼女もまたしゃがむ。
「ない、よ?」
あぁ、うん。実は知ってたよ。だって、君はずっと断ってくれていたもんね。
「ねぇ?」
「何?」
「…結構、ある?こういうこと」
「…!?」
「俺、大丈夫かなぁ」
「巧くんってば…!」
「でもね?」
「うん?」
「繋いだ手を離す気は全然ないよ、俺」
そう言って傍においてあった彼女の手を握る。
彼女はふわりと笑った。
勿論、赤い顔をして。
「ねぇ?」
「今度は、何?」
あぁ、知ってる。知ってるさ。
早くノートを取って部活に行かなければ、雅弥に怒られるってこと。
でもね、俺さ、それよりも今大事なことがあるんだよ。
しっかり怒られるから、その後は俺の愚痴もちょっと聞いてね、友人。
だけど。
「キス…していい?」
この甘い時間だけは、誰にも内緒だから。
「う…ん」
放課後の教室で。
誰にも見られないように、机の影で。
こっそり甘い、キスをするから。
これは、2人だけの
秘密、だからね?
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