「っくぅー…長かったぁ」
「お疲れ、巧。でもこれからもっと疲れるんでしょ?」
「さすがは生徒会長様。よくわかっておいでです」
「もう仕事は全部片付いたし、行っても良いよ。それに、もたもたしてるとどこぞのサッカーバカにブツブツ言われるんじゃない?」
「…ごもっともです。てなわけで、俺行くね!じゃ、また明日」
「また明日」

 ガラッと威勢よくドアを開けて向かう先はグラウンド。

「…っと、その前に」

 忘れ物したんでした。教室戻ってノート取ってこないと…。

 先生に見つかったら「廊下を走るな」って言われそうだけれど、サッカーを頑張っている友人に怒られそうなので見逃して欲しいところだなぁ。

 教室の前。少しだけ開いている扉に近づけば、そこには帰ったと思っていた彼女の姿があった。

「あれ、奏ちゃ…」

 声を掛けようと思ってすぐにやめた。
 そして、教室に入ろうとした足も同時に止まる。

 彼女は一人じゃなかったから。

「その…だから私…」
「…俺じゃ、ダメ?」

 あれ。
 これ、ちょっとまずいところに来ちゃった感じ?

 いけないと思いながらも素直な耳はその2人の会話をしっかりと聞こうとしていた。

「西園寺さんのこと、前から好きだったんだ。俺と付き合って欲しい」

 …ちょ、何これ、告白じゃん!彼氏としては聞き捨てならないんだけれど。

「だから、私付き合ってる人がいるから」
「蒼井でしょ?」
「知ってるなら…」
「俺、あいつよりずっと一緒に居てあげれるよ。蒼井、忙しいから今日みたいに待つことも多いんだろ?」
「…それは」

 胸の奥が少しズキッと痛んだ。
 人が気にしてることをずけずけと…そう思いながらも、寂しい思いをさせているんじゃないかって感じていた不安が…溢れ出てきそうだ。

 でも、ぎゅっと胸の辺りを掴んだその時だった。

「…いいの」
「え?」
「私が好きで待ってるんだから」
「…」
「私は、私が待っていたいから、巧くんを…待ってるの」

 ふわっとしたものが心に降りてきたみたいだった。さっきまでの気持ちが嘘みたいに引いていく。

 あれ。俺、こんな所で何やってんだろ。


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