「あ、巧くーん」

 ボーッとしながら廊下を歩いていると、少しトーンの高い声が聞こえて来る。
 振り返ってみれば、そこには笑顔の可愛い人。

「奏ちゃん、どうしたの?」

 あの日から数ヶ月が経って。
 気づけば彼女は…『俺の彼女』になっていた。

「さっき雅季くんが探してたよ」
「…げっ」
「お察しの通り。放課後、生徒会があるんだって」
「わぁ…雅弥にまたチクチク言われる」
「それは仕方のないことですよ、蒼井くん」
「そう思いますか?西園寺さん」

 「えぇ」と一言返事をした彼女。その彼女が隣に来てふわりと笑えば、そこだけ花が咲いたように華やぐ。
 でも、そんな風に見えるのはきっと俺だけなんだろうなぁなんて思いながら、それでも幸せだから良いやなんて思ったり。

 こんなこと口にしたら、あの双子に一斉に冷たい言葉を浴びせられそうだ。

 奏ちゃんはその笑顔からもわかるように、実は密かに男子の中でも人気の高い女の子だった。
 が、今まで誰も近寄れなかった。
 …ガードが強いから。

 そう思うと、俺ってなかなかな勇者だと思いません?

 …結構大変だったけど。

「巧くん?」
「え?あ、なんでもない」

 でも、大丈夫です。
 僕の隣にはもう彼女が居ますから。


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