「ありがとう、奏ちゃん。でもごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「ううん。だって、あの量を片付けるのは大変だから」

 放課後の奇跡と言いたいくらい。思わぬめぐり合わせ。
 いつもよりもゆっくりとした足取りで廊下を歩いていく。

「巧くんは、これから部活?」
「そうなんだ。早く行かないと雅弥に怒られちゃう」

 冗談交じりにそう言うと、彼女は小さくクスクスと笑った。
 うぅ、可愛いなぁ、ホント。

「本当は奏ちゃんと帰っちゃいたいくらいなんだけれど」
「え?」

 え?あ、ごめん。本音本音。
 なんて言えるわけもなく。

「なぁんて、無理だよね。部活だし」

 はははと情けなく笑うのが精一杯。
 夕暮れ染まるその廊下。奏ちゃんの頬まで染まってるよ。
 あぁ、横顔綺麗。

「じゃあ、グラウンドで待ってるよ?」

 隣歩いてるだけでも幸せなのに、待ってるって言ってくれてる。
 …え?
 …待ってる?
 え?誰?俺を?

「えぇ!?」
「え!?え?私、なんか変な事言った?」

 思わず出てしまった大声。慌てて開いた口を押さえると、奏ちゃんはぽかんとした顔をしていた。

「ご、ごめん。まさかそう言ってもらえると思ってなかったもんだから…」

 慌てて言ったその言葉。
 あれ?俺、今顔赤いですか?どうですか?

「ふふふ。そっか」

 あ、やっぱりその笑顔、可愛いです。

「本当に?いいの?」
「うん。待ってるよ、巧くんのこと。だから、今日は一緒に帰ろう?」
「やった!」
「え?」
「あ、えーっと、その、嬉しくて…つい」
「ふふ、変なの」

 いや、本当はこんなんじゃ足りないんです。
 俺、今嬉しくてたまらないんです。
 今日の部活はいつも以上に頑張れそうです。これ、本当に。

 こんなチャンス滅多に無いよね。次に続けられるかな?

「じゃあ、いってらっしゃい」

 そう言って、手を振る彼女。
 場所はもうすでに教室だった。

「ありがとう!頑張ってくる!」

 そう言うと彼女の姿は教室へと消えていった。

 神様、本当にありがとう。
 うわ、どうしよう。
 俺、すげー嬉しいんだけれど。

 この気持ち、どうしたらいい?
 この気持ち、どう伝えたらいい?

 他愛の無い話でも嬉しいこの頃。
 今日の帰りはある意味決戦です。

 いつか伝えられたら良いな、他愛の無い…話の後にでも。


 俺は、奏ちゃんが大好きです。


―Fin―

→あとがき


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