手渡されたのは小さなカップケーキだった。
 しかもご丁寧にデコレーションされていて、小さなプレートまでついている。
 プレートには
 『ハッピーバースデー マサキ』
 と、これまたご丁寧に歪な字で書かれていた。

「ケーキの代わり…なんだ。だって、大きなケーキは大勢で食べるものでしょう?」
「確かに、そうかもね」

 少しだけ焦げ目のついたその少しだけ傾いたカップケーキは、きっといくつか作った中でも一番良かった出来のものなんだろう。
 それはそれで、奏らしいところだから。敢えて何も言わないでおこうかな。

「食べて良い?」
「う、うん…」
「そんなに不安な味なわけ?」
「あ、味見はしたもん!」

 赤い顔をして反論してきた彼女を見て一つ笑った後、僕はそのケーキを一口食べた。

「…どう、かな?」
「さあね」

 本当は「おいしい」と一言言えば良いのに。
 素直じゃない僕はいつだってそうだ。

「え?ま、まずい!?」
「確かめてみる?」

 慌てた彼女をぐいっと引き寄せると、今度は深いキスを浴びせた。

 ケーキの甘ささえも霞むほどの甘い甘いキスを。

「…どうでしたか?」
「それじゃあ、わ、わからない…です」
「ふぅん。もっとしてほしいんだ?」

 きっと奏は「そういうわけじゃない」と反論するだろう。
 でもね?
 そんな時間、あげないよ。

 だって、僕が我慢できないんだ。

 折角の誕生日。
 いつもと違って『特別』に思えた大事な日になったしね。

 だから、我侭くらい…いいでしょ?

「ねぇ?」
「何?」
「僕が今一番欲しいもの、くれる?」
「え?」


 ―…答えは、奏。


 さぁ、その熱を
 僕に感じさせて?




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