「…で、ここはこういう式になるわけ。わかった?」
「う…うん。わかった」
若干不安そうな顔をしながら、ノートと睨めっこをしている奏。
「本当に奏は数学が苦手だよね」
「だって!今まで行っていた学校よりも進度早いんだもん!」
目線はノートに落としたまま、彼女は答えた。
「でも、元々苦手でしょ?数学」
「う…」
そして、今度はしょぼんと黙り込む。反応が素直な彼女だから、見ているだけで楽しくなる。
素直なところは彼女の良いところだって思う。…素直すぎるところもあるけれど。
「まあ、でも」
「うん?」
「わからないところは教えてあげるから」
「…うん!ありがとう!」
ほら、すぐに笑顔になった。
「じゃ、次。この問題、自分で解いてみて」
「えー!?」
「大丈夫、さっきやった問題出来たんだから」
彼女は不安そうな、どこか焦っているようなそんな顔をしている。さっきは教えてくれたから出来たんだと言いながら。
そんな彼女に1つ提案をした。
「じゃあ」
「じゃあ?」
「1人で解いて、正解したら良いものあげるよ」
「良いもの?」
「そ。奏の好きなものかもね」
奏はそれが何かを少しだけ悩んだ後、頑張る!と言って教科書とノートに向き合うのだった。
何かは、まだ教えてあげないよ。問題を解いたらの…ご褒美だからね。
そっと彼女の横顔を見つめる。
彼女の真剣な顔を見ている自分。
彼女を独り占めしているんだと思ったら、なんだか嬉しく感じた。
あの、空の下でキスをしてから…ずっと独り占めしているんだけれど、さ。
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