人類最疫の請負人







「こんな冗談みたいな話、誰にも言わないよね?」

「もし誰かに言うつもりなら……、やっぱり斬らなくちゃならないかなぁ」


「……ありがとう」




沖田さんの言葉が、何度も、何度も頭の中をグルグル回って、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。

どうして…彼は泣いてくれないんだろう。
なんで、あんなにもいつも通りの言葉を紡ぐんだろう。



私は、気が付けば泣いていた。ポロポロと涙が頬を伝って零れ落ちる。



その時───






『千鶴……泣いているの?』



ハッと、聞き慣れた声がした方を向く。

そこには、あの人がいた。

体中に巻かれた包帯の異常な姿の人。その包帯が体中に巻かれている事を“普通”であるかのように平然と振る舞っている。

彼の普段着である着流しは、初対面の人間にも着慣れた印象を与える。その上に羽織りを羽織って立っている。

灰色掛かった銀髪に曇り空を思わせる瞳。中性的な顔立ちは優しげで儚ささえ感じられる。
容姿からは、とても似合うとは思えない組み合わせなのに、不思議と似合う。

むしろ、彼の儚さを感じさせる顔立ちと、着流しがまるで、この世のものでは無いような…浮き世離れした魅力を持つ。



「游さん…?!」



浮奇游[ウキユウ]───彼女は名前を呼ぶとふわりと笑い、



『あぁ…やっぱり千鶴だ』



と言って歩み寄って来た。



「游さんが、どうしてここに?」

『良順に呼ばれてね。私も病や傷には詳しいから、助手を頼まれたんだ。
だけど、まぁ…私はこんな姿だからね。隊士達の健康診断自体にはあまり直接は関われなかったんだ』

「そうだったんですか」



江戸での知人と久し振りに会うことが出来て、沈んでいた気持ちが少しだけ浮かれた。

自然と笑みを浮かべていると游に手を引かれた。抵抗する間も無く、連れていかれる。

そして、そのまま着いた場所はどうやら初めて頓所に連れて来られた時に尋問された部屋。

ここで待つよう有無言わせぬ笑みで言うと、游はサッと姿を消した。

そして、その後に現れたのは新選組の幹部達の姿。山南の姿もあり、驚いた。

聞くと、松本に言われて来たのだと言う。

すると、松本が姿を見せた。



「おぉ、全員いきなり集めてしまってすまないな…游君、本当に良いのかね?」

『良いから、良順。可愛い千鶴が泣いていたんだ。これくらい安いものさ』



そう言う話し声が聞こえたあとに、スッと襖が開かれ游の姿が見えた。


近藤が見慣れない游の姿を見て、口を開く。



「君は?」

『初めまして。私は浮奇游と言います。今回は良順の助手として参ったのですが…事情が変わりました。

沖田総司、私は貴方に問います。先程、良順の診断を知りました。
その上で、貴方は“治したい”ですか?』

「…どういう事ですか?先生」

『良順は関係無いよ。たまたま良順を待っていて中庭に居たら2人の会話が聞こえてしまった───ただ、それだけさ。で?治したいの?治したくないの?私が聞きたいのはそれだけだよ』

「治せるものなら治したいですよ。勿論。でも、『分かった』…は?」



『“その病、私が請け負いましょう”』





游さんはそう言って微笑んだ。

まるで、契約を取り付けた悪魔のように純粋で、無邪気な笑みがその場に居た人間の心を揺さぶった。






─────────


沖田さん労咳回避ネタ。
浮奇游、「流体賢者(ブルージーシャッフル)」は人類最疫の請負人で、奇野に似てるけど、違う病や怪我を自分の身に移して“請け負う”人。
だから全身包帯塗れで、右目にも包帯。素肌がチラッと見えてる所が色気ムンムン。
そんな游さんは千鶴ちゃんにベタ甘、超優しい。
だから千鶴ちゃんが泣いてるの見てなら、私がその病請け負いましょう!と乱入ってお話。



*


- 24 -


[*前] | [次#]
ページ: